究極に無責任な平和主義者

いわゆる平和主義者とは、何が起きても戦争に参加しないことが高い理想であるかのように考える人たちです。実体は不戦主義であるいわゆる平和主義者の正体は、無責任な楽園主義者です。国境のことひとつをとっても、今このとき、すでに日本がどれだけ危ない状況にあるかということがわかっていません。「戦わない」と言えば侵略されないのか。そんなことはありません。それが世界の常識というものです。

国防のうえで、戦後の日本がなんとかやってくることができたのは、在日米軍と自衛隊の活動によります。この在日米軍と自衛隊を、いわゆる平和主義者たちは敵視します。

しかし、日本がまったく軍備のない丸腰の国になったらどうなるでしょうか。日本に向けてミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮や、海洋侵略を繰り返す中国の指導者は大喜びするでしょう。中国に至っては、尖閣諸島はもちろん沖縄もただちに占領してしまうでしょう。

そして、この在日米軍の活動を主に規定しているのが、日米安保条約という条約です。正式名称を「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(Treaty of Mutual Cooperation and Security between the United States and Japan)」と言います。

1951年(昭和26年)、日本はアメリカ合衆国をはじめとする第二次世界大戦の連合国側49カ国との間に、サンフランシスコ平和条約を締結して国家主権を回復し独立します。同時に旧日米安全保障条約(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約)が結ばれ、GHQとして駐留していた連合国側軍部隊のうち、アメリカ軍部隊が在日米軍として残留しました。

日米安保条約は1960年(昭和35年)に改正、調印されて新日米安全保障条約となり、10年毎に更新を迎えながら今日に至っています。

▲サンフランシスコ平和条約に署名する吉田茂 出典:ウィキメディア・コモンズ

アメリカにとっての国益のための条約

日米安保条約に基づく日本とアメリカの関係を、一般的に「日米同盟」と呼びます。「日米同盟」という言葉は公式な用語で、外務省のウェブサイトにも「日米同盟は、日本の安全とアジア太平洋地域の平和と安定のために不可欠な基礎。同盟に基づいた緊密かつ協力的な関係は、世界における課題に対処する上で重要な役割を果たす」と概説されています。

歴史の教科書で教えられる日独伊三国同盟など軍事同盟の印象が強く、日本は軍隊を持っていないのになぜ同盟? といった疑問を持つ人もいるようです。2017年(平成29年)に立憲民主党の山川百合子衆議院議員が「日米同盟はいつ始まったのか」という質問を含む、質問趣意書を内閣に提出したことがありますが、政府は「日米両国がその基本的価値及び利益を共にする国として、安全保障面を始め、政治及び経済の各分野で緊密に協調・協力していく関係を総称するもの」という意味で「従来から」と答えています。

日米安保条約の第6条の冒頭には、こう書かれています。

日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。

同盟とは、基本的に平等なものです。アメリカが日本に軍隊を置くのは、もちろんアメリカの国益のためです。

では、アメリカの国益とはなんでしょうか。「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する」。つまり、日本という同盟国の安全を保障することがアメリカの国益なのです。

▲ドナルド・トランプ 出典:ウィキメディア・コモンズ(photo:Gage Skidmore/2016)

少し乱暴な言い方になりますが、そのついでに日本という国自体が助かっているということです。日本の安全が危うい、つまり日本が弱ければ、世界のパワーバランスが崩れてアメリカが困る、ということで日米安保条約に基づく日米同盟が続いているわけです。国益として合わないのであれば、決して同盟など結びません。

ところが、日本の人たちは、この「国益」というものを考える習慣がないようです。

有権者はもちろん、政治家においても、日本独自の国益ということをようやく考え始めたのはつい最近、2017年にドナルド・トランプが米大統領になって国益という言葉を頻繁に使うようになってからのことでしょう。