「デザイン」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか? 多くの人は、芸術や美術関連のことを思い浮かべるのではないでしょうか。たしかに、「見た目の造形」を示す言葉ではありますが、実はもっと深い意味があるのです。そして、「デザイン」という言葉の本当の意味を正しく理解することが、とても大切なのです。

大日本印刷、プレシーズを経て、テックファーム株式会社にてデザイン事業と部門を立ち上げた、情報デザインのスペシャリストである天野晴久氏が、本来の意味での「デザイン」について解説してくれました。

※本記事は、天野晴久:著『創造力とデザインの心得 5年後の“必要”をつくる、正しいビジネスの創造計画』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。

「デザイン」とは何だったのか

古くから、デザインとは「モノゴトの創造の営み」そのものを指す言葉でした。

デザイン自体は人類誕生のころから営まれてきた行為ですが、現代に通じる近代デザインとして成立したのは1919年で、わりと最近の出来事です。

ご存知のように、ヨーロッパの経済は、18世紀半ばから19世紀にかけ、産業革命によって急激に成長しました。しかし、その後、新しい時代に対応しきれない社会は衰退するようになり、結果として100年以上にわたる混迷に陥ります。

この状況を解決した最大の取り組みの1つが「近代デザイン」の成立でした。つまり、デザインはもともと、環境変化による衰退と混乱という、現在の日本と同じような状況を解決するために生まれた概念なのです。

近代デザインの成立によって、人類は、変化に即した合理的な対応ができるようになりました。

その後のおよそ100年間で、過去とは比較にならないほどの急速な成長を成し遂げることができたのは、そのおかげといっても過言ではありません。

デザインとはそもそも、このような意味を持った言葉です。

「新しい環境に適応するための、
新しい価値とモノゴトの創造計画と可視化」

創造の対象は、モノだけでなく、人や環境や活動といったコト(非造形物) をも包括しています。つまり、現在に至ってもまだ解決できていない問題や課題を解決し、より良い生活環境を造るために、新しいモノゴトを創造することこそが「デザインする」ということになります。

▲モノだけに留まらず、問題を解決するために想像することすべてが「デザイン」 イメージ:yoshimi / PIXTA

デザインという創造計画をするためには、まず、自然や社会環境といった背景をきちんと理解することが欠かせません。そのうえで、あらゆるモノゴトを新しい解釈で再認識し、そこで見出された問題を解決するために「新しいモノゴトの創造計画」を構築するのです。こうした営みが「デザイン」 であり、変化に即した合理的な対応そのものなのです。

ここであらためて確認しておきたいのは、デザインの解釈です。

現在、この「デザイン」という単語は、本来の意味とは少しズレた理解で広まっているのが実情です。とくに日本においては、モノ (造形物) の色や形といった、いわゆる「商品の見た目」を指す名詞として認知している人が大半でしょう。そのため、背景にあるコト(非造形物)が意識されず、商品であるモノの造り込みばかりが進んでしまう傾向があります。

たしかに、モノ (造形物) の見た目も、デザインにおける大切な一要素ではあります。しかし、それはごく一部の要素に過ぎません。こうした狭い解釈が、「新しい環境に適応するための、新しい価値とモノゴトの創造計画と可視化」というデザインの本質への理解を妨げているのです。