どうすれば、本来の意味での「デザイン」を実現できるのか

現在、多くの企業や組織において、変革のために「リーン」「デザインシンキング」「サービスデザイン」といったプロセスやテンプレート(テンプレ)を、ツールとして活用するシーンが増えています。日本でも多く利用されるようになっていますが、その効果は実際のところ、どうでしょうか。

わたしの知る限り「上手く活用できた!」という事例は、ほとんど見たことがありません。

同様に、デザインオフィスやコンサルティング会社、広告代理店に仕事を依頼したけれど、「なんだかしっくり来なかった」という経験をお持ちの方も多いことでしょう。

なぜ、そうなってしまうのでしょうか。

もっとも大きな要因は「デザイン」というものに対する認識のズレです。正しい定義が共有されなければ、行為の内容を理解することはできません。

理解のない状態で表面的なツールだけを導入しても、本来の目的は二の次になり、「テンプレの枠を埋める」「プロセスどおり進める」という作業そのものがゴールになってしまうのです。

失敗事例のほとんどはこのパターンです。

わたしも「上手くいかなかったプロジェクトの巻き取り」のご相談をいただくことがあります。

ほとんどの場合、テンプレを埋め、プロセスを守ったのに「モヤモヤする」「まとまらない」「周囲の反応がよくない」という状態です。

内容を見ると、ほぼ100%、「商売都合」「必要性がないもの」を強引にまとめようとしています。

利用者の必要性や都合を見ていないものや、商品開発や新規事業をする、という程度の創造計画しかしていないものばかりです。

▲表面的なツールの導入だけではうまくいかない イメージ:bee / PIXTA

そこで、わたしがデザインの仕事を引き受けた際に必ずおこなうのが「そもそも」を定義することです。なぜこのプロジェクトが存在するのか? なぜそれをつくるのか? 社会に対する企業の役割(使命)とは何か? を徹底的に定義し、プロジェクトが「自分ごと」であるという姿勢をつくります。

そのうえで、社会的な問題や課題を洗い出し、創造計画の軸を見直すことから始めます。デザインという概念をしっかり持ってもらうために、以前の作業はいったん捨ててもらい、試行錯誤の基本姿勢を体得してもらうのです。

こうしたプロジェクトの構えや概念がしっかり整ったあとに、テンプレやプロセスを応用していくという流れです。

プロセスやテンプレは、誰でも簡単にデザイン活動ができるようになる「イノベーションのための魔法のツール」ではありません。

こうしたものをつかう以前に、まず、デザインという概念の本質を理解し、しっかりとした構えを身につけておくことが必要なのです。

そうではない状態で、表面的なツールだけをいくら導入しても機能することはないでしょう。

これは、海外のコンサルや企業、大学などとの連携においても同様です。日本の多くの企業が、海外の取り組みを視察したり、連携を模索したりしながら、デザインという機能を経営に取り入れようとしています。

しかし、わたしたちの側がデザインを誤解したままでは、相手がいかに優秀でも、有意義な連携が成立することはありません。

▲デザインの本質を理解したうえで取り組むべき イメージ:mits / PIXTA