ヤットの武器は目に見えないところにあった

平畠 いわゆる“削り”がいちばん強烈だったのは、どのリーグですか?

中村 イタリアですね。リーグによって、ファウルやイエローカードの基準は違いますけど、イタリアは飛び抜けて基準が甘い。だから、中盤での攻防は当たりがとても激しいんです。アウェイのペルージャ戦で後ろからバコーンと刈られたことがあったんですけど、イエローカードも注意も一切ありませんでした。

平畠 でも、めちゃくちゃ痛いんでしょう?

中村 足ごともっていかれたので、かなり痛かったですけど、すぐに立ってプレーを続けました。背負ってボールをもらうと潰されてしまうので、中盤では受けずにフォワードの近くにポジションを取ってこぼれ球を受けたり、トップ下のときはサイドに開いてポジション取りをしたりと、どういう現象が起きるのか考えたりとか、いろいろと試しました。

ヒデさん(中田英寿)はセリエAでプレーしていたとき、ディフェンダーを引きずりながら前へボールを運んでいたじゃないですか。経験したからこそ感じることですけど、すごいですね。

▲イタリアの“削り”の激しさを話す中村俊輔選手

平畠 なるほど。中田さんはイタリアで自分の色を出せていたということですね。

中村 そう思います。あと試合に出続けるためには、本当に理解してくれる仲間がいないとダメなんだと気づきました。

レッジーナでは、モーツァルトっていう左利きのブラジル人選手にいろいろと助けてもらいましたし、セルティックではペトロフっていうブルガリア代表の選手がすごくいい奴だったので助かりました。

平畠 試合に出続けるためには、チームメイトの信頼が不可欠だということですね。

中村 ヤット(遠藤保仁)が必要とされるのは、そういうところだと思います。トップ下だけじゃなく、サイドバックやサイドハーフ、ストッパーともいい関係を築けるからこそ、長く代表にいられたんです。

平畠 監督としても、選手のそういうところは見ていると。

中村 ザッケローニはイタリア人でしたし、そういうところもよく見ていたんじゃないかな。ヤットの武器は目に見えないところにもあると思います。

いい選手だった人は監督になっても細かい指示をしない

平畠 今まで数々の監督の下でプレーされてきましたが、印象に残っている監督はいますか?

中村 セルティックの監督だったストラカンは、すごくいい人でしたね。選手によって違ったのかもしれないですけど、僕には「エンジョイフットボール!」とか「家族は元気?」と話しかけるだけで、プレーのことは何も言いませんでした。

平畠 一番いいパフォーマンスを引き出すには、どの選手にどういうことを言うといいのか、わかっているということですね。監督によっては、プレーについて細かく指示する人もいると思いますが。

中村 もちろん、それはそれで勉強になりますけど、外国人監督にそういうことを言われたことは一度もないですね。

僕は、試合が終わるとジムに行って、ちょっと負荷をかけるんですよ。海外では試合後に負荷をかけることは基本的にしないみたいで、びっくりされました。監督が「お前らがバーへ行っている間に、ナカは筋トレをやっている。これがプロフェッショナルだ!」みたいな話を、ほかの選手たちにしていたみたいですね。

いい選手だった人で、戦術云々みたいなことを言う人はいないんですよ。フリーキックに関しても(木村)和司さんは、僕に何も言いませんでした。

平畠 監督によって、選手へのアプローチの仕方が全然違うんですね。勉強になるなぁ。中村選手、今回は貴重なお話をありがとうございました!

中村 こちらこそ、ありがとうございました。

▲サッカー愛にあふれる対談となった

中村俊輔選手と平畠啓史氏がサッカー用語について語った対談は『平畠啓史の日本一わかりやすい Jリーグ語辞典』に収録されています。

▲小社より好評発売中!