『M-1グランプリ2018』決勝進出を機に、その名を世間に知らしめたトム・ブラウン。みちおの「合体!」という言葉を合図に、誰かと何かを融合させるという斬新なボケに対して、布川ひろきが「ダメ~!」と言いながら頭を叩いてジャッジを下す“合体漫才”に、衝撃を受けた人も多いはずだ。

現在は4都市を巡る全国ツアーの真っ只中。昨年は『無観客無配信ライブ』を企画(※新型コロナウィルスの感染拡大の状況などを踏まえ中止となった)、7月にはこのツアーのファイナル公演として、無人島でのスーパーソーシャルディスタンス単独ライブを敢行するなど、ネタ同様にオリジナリティー満載の活動が際立っている。

※本記事は『+act.(プラスアクト)2021年7月号』(ワニブックス:刊)より、一部を抜粋編集したものです。

声は9割9分聞こえないと思いますけどね

——本来は、昨年4カ所を巡るツアーを開催する予定だったんですよね。

布川ひろき(以下、布川) 一昨年まで東京・札幌・長崎でやってたんです。長崎は縁もゆかりもないんですけど『M-1』決勝でやったネタを初めてやった場所で、縁起がいいといいますか。最近は長崎へ(お仕事で)呼んでもらえるようにもなって、もう1カ所増やしたいなということで岐阜を選んだんです。

みちお 長崎は、一緒に住んでる元芸人が長崎出身なので、僕は少しだけ縁はあるんですけど、岐阜は本当になんの縁もないところです(笑)。

布川 平成の時代は東名阪が中心だったんでしょうけど、令和は札長岐ということで。場所によってお客さんの反応も変わりますし。

みちお それこそ長崎で…………あ、さっき布川が言ったことだ。

布川 (笑)。でも、2回目までなら載せてもらえるかもよ?

みちお じゃあ……長崎で『M-1』でやったネタがウケたっていうのもあるので、いろんなところでやる意味はあるのかなって思います。……ね? さっき言ってたなぁって気づいたけど、話すのやめられなかったわ。

布川 2回言ったから、絶対に伝えたい話になっちゃったね(笑)。いいんだよ、さっき俺が言ってたなぁって気づいてたんだから、もう1回言ってよかったんだ。

——(笑)。

布川 最初に長崎で単独ライブをやったときは、お客さんが6人しかいなくて。でも『M-1』でやったネタは、100人くらいお客さんがいるんじゃないかっていうくらい、どーんとウケた感触があったんです。自分で言うのもなんですけど、長崎ってわりと変なネタでも笑ってもらえるんですよね。逆に、地元の札幌は結構スベって恥ずかしかった。家族とか見に来てたのに。

みちお まぁ、長崎って江戸時代に出島があって日本の最先端だったわけじゃないですか。だから、ちょっと変わったものでも受け入れる態勢があるのかもしれないですね。

——雑誌が発売されるころには、長崎・岐阜・札幌でのライブは終わっているはずなので、無事開催されることを願っています。何より、今回の驚きは無人島での単独ライブですよね。

布川 昨年3月末に無観客配信ライブをやろうとしてたんですけど、緊急事態宣言が出るかもしれないということで中止にしたんです。当時ライブ配信が主流になろうとしていたころで、もちろん配信でライブを開催するのはいいんですけど、なかにはちゃんと気持ちを入れて配信してないんじゃないか、と感じる人たちもいたように感じたことから、僕らは『無観客無配信ライブ』っていうのを企画したんです。

みちお 配信するより(ライブへの)熱意が伝わるんじゃないかっていうことで。

布川 今は配信が当たり前になりましたし、お客さんが入っているライブもある。また無観客無配信やるのも変だし、どうしようかなと思いながらいろんな人の話を聞くと、ライブは見に行きたいけど、劇場に行くのをためらってる人がいることがわかったんです。

——換気しているとはいえ、人が集まる劇場へ足を運ぶことに不安があると。

布川 はい。僕の友達でも、単独ライブに行きたいけど今はやめとくっていう人もいて、そういう人たちがどうやったら安心して見に来てくれるのかなと考えて、無人島でのライブを企画したんです。

みちお 僕らが無人島でネタをやって、それを本土の岸からオペラグラスとかで見るなら、安心してもらえるだろうと。

布川 スーパーソーシャルディスタンスライブですよね。僕らもいつもよりデカめの声でやります。

みちお 見えるかどうか不安な人は、野鳥を観察する用の双眼鏡とか星観察用の望遠鏡を持ってきてもらえれば。声は9割9分聞こえないと思いますけどね。

布川 有料になりますけど台本も買えるので、台本を見ながら僕らの動きを見てもらえれば、あぁ、今「ダメー!」って言ったなとか理解してもらえるのかなって。

みちお まだ未定なんですけど、音声ガイドも付けようかなって。ミュージアムに行くと、作品の解説が音声で聞けるじゃないですか。僕らの(ネタをやっている)肉声を届けるのではなく、あんな感じで僕らの心情を流そうかなと。オペラグラスで僕らの動きを見て、台本でネタを確認しながら、更に僕らの心情をイヤホンで聞いてもらう。距離はありますし、安心して楽しんでもらえるはずです。

布川 ただ、人が集まり過ぎるとソーシャルディスタンスが取れなくなっちゃって、さっき話した理念が崩れてしまうんですよね。だから、10~20人が理想です。

みちお 密にならなければいいので、10メートルずつにひとりだったら大丈夫かなって。あと、望遠鏡でちょっとした丘の上とかから見ててもらうこともできると思います。

布川 無人島の候補はいくつかありまして、関東から遠くないところでやりたいんですけどね。島と本土の距離が1キロくらい離れていてほしいので、どこでするか悩んでるんですよ。

——直線で1キロ……どれくらい見えるんでしょうね。

布川 僕、北海道出身なんですけど、稚内へ行ったときにサハリンが肉眼でしっかり見えたんです。だから、1キロでも余裕で見えるんじゃないですかねぇ。

みちお まさかサハリンで例えるとは思わなかったわ。

——(笑)。ネタはおふたりで作られているんですよね?

みちお そうです、そうです。ひとりで作るほうが絶対に早いんですけど、ふたりで作ってるからめちゃくちゃ時間がかかっちゃって。例えば、愛してると恋してるのどっちにするか、とかで2~3時間話し合うんです。

布川 愛してると恋してるだったら(用途に)違いはありますけど、もっとどうでもいいことで揉めるんです。ほかの芸人さんにはマジでその時間いらないし、無駄だよってよく言われます。

みちお でも、でもでも、どっちがいいかとかね。それで1~2時間くらい話して。

布川 確実に、今まで1年分くらいの時間は無駄にしてますね。半日、カフェにいてね?

みちお ひとつも進まなかったこともありました。今は後輩や同期に入ってもらうことが多いのであんまりなくなりましたけど、それでも時間はかかります。

トム・ブラウンさんへのインタビュー記事は、6月12日発売の『+act. (プラスアクト) 2021年7月号』に全文掲載されています。