ウルムチ出身のウイグル人であるムカイダイス氏と、中国ウオッチャーの福島香織氏による特別対談。今回は、ウイグルに対して味方であるべきはずの「日本のウイグル学者」の残念な実態と、日本人が国外で何か問題を起こした時に巻き起こる「自己責任論」の弊害について語ります。

▲出典:『ウイグル・香港を殺すもの』

日本の学者は「ウイグルの友人のため」と・・・

福島 強制収容所に入れられている人のなかには、ムカイダイスさんの親戚の方もいらっしゃるんですか?

ムカイダイス 私の親戚も入れられているとは聞いていますが、確認はとれていません。そもそも、ウルムチの家族や友人と連絡がとれないので、知る術がないのです。ただアメリカで確認された情報として、私が大好きで仲良くしていただいていたウイグル民俗学者の先生が、強制収容所に入れられています。その人は世界トップクラスの学者で、毎年1~2回は日本に来て、学会で発表もされていました。本当に学問一筋の人なんですけど、そんな優秀な学者の先生が強制収容所に入れられているんです。

日本のウイグル学者の先生方のなかには、その先生との交流をSNSで自慢気に投稿したり、ウイグルでのフィールドワークで、その先生にいろいろとお世話になったりした人たちもいるんですが、彼らはこういうときには誰ひとりとして声をあげない。先生の現状を心配する声や、同情のひと言もない。学者である以前に、ひとりの人間としてひと言でも発すればいいじゃないですか。こういう態度をとるのは日本の学者くらいで、はっきりいって日本のウイグル学者は世界から取り残されています。

それでも彼らは言うんです。「いや、私たちにはウイグルにたくさん友人がいるから、その人たちが被害を受けるといけない。だから黙っているんだ」って。偽善もいいところです。私たちウイグル人は、そういう偽善者と誰ひとり友達になろうとは思いません。むしろ、そういう人たちがいつかウイグルと日本の友情を壊してしまうんです。将来のためになりません。いくら私たちが「国のない弱い立場」であっても、日本人はそれ以下の道を歩いてはいけないんです。

福島 その「ウイグルの友人のため」っていうのも、おそらく半分は本音なんでしょうね。でも、やはりひとつの方便であって、結局は自分の保身のためじゃないかな、という気がします。たとえば中国政府の機嫌を損ねて、旧東トルキスタン地域にフィールドワークに入れなくなったら困るとか。私も中国で取材していたときに、私じゃなくて取材相手がひどい目に遭いますよっていう圧力を受けたことがあります。中国が相手だと、その手の脅しをいっぱい受けますから。それにしても、その先生を解放するための署名運動みたいなことを、日本のウイグル学者さんたちはしてこなかったんですね。

ムカイダイス 私、署名を持っていったら拒否されたんです。「これ、持ってこないで。見たことも言わないで」って。でも、モンゴル学者やチベット学者の先生方は違うんです。積極的にデモに参加する人もいます。学者としての目先の利益と人間としての道徳的な価値観、どちらに重きを置くかっていうときに、彼らは学者である前に人間でいたい、という信念をもっていらっしゃったんですね。むしろ、世界の学者の多くはそうだと思います。でも、日本の一部のウイグル学者たちだけ、世界的にも異常な行動をとった。それが私には不満だったんです。

全員が全員というわけではありませんが、日本のウイグル学者の一部の先生方は、常に中国の立場で、中国の顔色をうかがいながらウイグルを研究しています。彼らからすれば「新疆ウイグル自治区」に住む「少数民族のウイグル族」の問題は、あくまでも中国の民族政策の問題なんです。だから、中国の民族政策を研究することが、日本のウイグル学者たちの基本的なスタンスになっています。

福島先生のおっしゃる通り、彼らは中国のご機嫌を損ねて中国にフィールドワークで入れなくなることを恐れているので、ウイグル問題を正面から取り上げることができません。その結果、彼らは自分たちで設定した「中国の民族政策」としての新疆ウイグル自治区の問題点すらも、十分に伝えられなくなってしまっているんです。

一方で、こうした日本のウイグル学者と交流をもっている現地のウイグル人たちは、この人たちが正義感をもって、ウイグルの問題を日本社会にしっかりと伝えてくれていると信じています。まさか日本のウイグル学者が、ここまで「事なかれ主義」で自己保身に走る人たちだとは夢にも思っていないでしょう。ウイグル人たちに限ったことではありませんが、アラブ・イスラム世界の人たちは、日本という国と日本人を本当に信頼しています。なので、日本のウイグル学者の“正体”を知ったら、どんなにがっかりすることか。

きっと、こういう人たちは漢民族からも軽蔑されると思います。「日本人はここまで落ちたのか」って。漢民族は口では日本人をののしっていても、心のどこかで日本を尊敬していて、自分たちも日本人みたいになりたいって憧れているところがあります。実際、彼らは「憧れの的であり、憎い日本人」を目指して今まで頑張ってきました。

だから、日本の一部のウイグル学者のような“残念な日本人”をみると、彼らは落胆ともに軽蔑を隠そうともしないでしょう。私は高校・大学時代を北京と上海で過ごしたので、そういう漢民族の気質や思想がなんとなくわかります。結局、そういう尊敬できない“残念な日本人”が、中国からも最初に見捨てられるんですよ。そのことをまず自覚してほしいなって思います。

▲トルファンの反ムスリムプロパガンダ 出典:PIXTA