「投資詐欺」は心の隙間を突いてきた

なぜ、そんな大切なお金を投資に回してしまったのかと疑問が湧くだろう。だが、それにも理由があった。

「当時、息子が大学に入学したばかりで、入学金や学費で100万円以上のお金を支払った頃だったんですよね。『これから卒業まで、毎年この学費がかかるのか……』と思ったら、ものすごいプレッシャーでした。卒業まで無事に払っていけるだろうか、いや、どうにかして稼がなきゃと悩んでいるときでした。そんな心の隙間に投資の話が入り込んできたんです。詐欺って、本当に困っているときにつけこんでくるのかもしれませんね」

騙されたとわかり、同じような被害者と知り合うようになっていくと、今回の投資を紹介してくれたR子さんは、S子さん以外にも何人かをT氏に紹介しており、R子さんは被害に遭っただけでなく、収益も得ていることがわかった。だが、さらにその上のグループリーダーのT氏には、R子さん以上の収益があるはずである。

「なのに、T氏は『僕も被害者です。S子さんより、もっとたくさんOZプロジェクトに投資していて、それは返ってきていない』と言い張るんです」

OZプロジェクトは、仮想通貨のICO(上場)詐欺である。しかし「紹介者へのキャッシュバック」がある、MLM(ネットワークビジネス)の側面もあるのが特徴である。そのことにより、お金を失うだけでなく、人間関係にもヒビが入ってしまうという二次的な被害も生む。

▲騙されたのではと疑いを持つグルーブの仲間とS子さんとのやりとり (S子さん提供)

そのあとも、S子さんはR子さんと付き合いは続いており、R子さんに対しては訴えたいなどの気持ちもないという。

しかし「T氏のことは許せないですね。今回、首謀者が4人逮捕されましたが、私はあの人たちのことを知らないし、逮捕されたのは良かったと思いますけど、お金は返ってきてないし、全然納得がいきません。T氏も逮捕されてほしいですよ。いちばん憎いのはT氏です」と話す。

詐欺被害、特に投資詐欺に関しては「こんな儲け話に乗るほうが悪い」「被害者にも非がある」と、騙される側が悪いという意見も少なくない。

かつては私も同じように思っていた。たしかに「知識がないのに投資に手を出すな」「勉強もしないで儲かると思うな」「簡単に儲かる話は世の中にはない」という言い分はよくわかる。

けれども、そう思っている人でも騙されてしまう現実を目にして「なぜ、人は騙されてしまうのだろう」と深く考えるようになった。実際、私も「騙される側にも非がないわけではない」と今でも考えているが、同時に詐欺被害にも遭っている。今後、自分が騙されないという自信もない。

だから、詐欺被害者を取材していくうちに「なぜ、騙されてしまったのか?」と丁寧にすくい上げていくことで、詐欺被害を未然に防ぐための一助になるのではないか、と考えるようになった。

騙されてしまった側の人たちの声にじっくりと耳を傾け、詐欺犯罪の身近さ、怖さをお伝えできていれば何よりだ。

▲勇気を持って話をしてくれたS子さん