孤立する子どもたちの心に潤いを与える

社会には、夜の街に対して一線を引く空気が確実に存在する。

平常時はそれに目をつぶり、それぞれ相手をうまく利用しながら共存しているが、コロナ禍のような災厄時には、違いが明確になって非難の応酬が起こる。

水商売や風俗は善か悪か、という議論がたまに起こる。

僕は、この議論にはあまり価値がないと思っている。

夜の街は、家庭や社会の問題が重なりあって生まれた結果の1つだ。結果の善悪を論じるより、そこにいたる家庭や社会の問題に目を向け、改善していくことのほうが重要だ。

少なくとも、たまたま劣悪な家庭に生まれ育ったがゆえに、自らの意思とは関係なしに、夜の街へ流されるということは防がなければならない。

▲孤立し問題行動を起こす前に子どもたちを保護する イメージ:PIXTA

こうしたことに取り組んでいるのが、児童相談所をはじめとした児童福祉に携わる人たちだ。

児童相談所は、親が暴力や貧困で子育てが困難になっている場合、その親の相談に乗って家庭を支援するか、場合によっては子どもを引き取って保護する公的機関だ。

子どもたちは家庭で悪影響を受けることで問題行動を起こすようになり、夜の街にいたるレールに乗せられる。児童相談所は、こうした子どもたちを未然に保護し、家庭環境を改善させ、それが困難だと判断すれば児童養護施設や里親のもとで生活をさせる。

施設で親代わりとなる大人たちが行なうのは、子どもたちに対する衣食住の面倒だけでなく、十分な愛情を注いで心に潤いを与えることだ。子どもたちの言葉に耳を傾け、気持ちに寄り添い、思いやりのある言葉をかける。大人への信頼、社会への安心を取りもどさせることも重要だ。

児童養護施設の職員は次のように語る。

「家庭に恵まれなかった子どもたちは『何をやってもムダ』『どうだっていい』っていう言葉をよく発します。家庭でずっと裏切られてきたので、他人どころか、自分のことさえ大事にできないんです。私たちの仕事は、そういう考え方を変えることです。

彼らの心に寄り添い、信頼関係を築いていくことで、自分を大切に思ってくれる人が、こんなにいるんだとわかってもらう。見守ってもらえているという意識は安心を生みますし、夢を抱いてもいいんだ、努力してもいいんだという気持ちにつながる。自分のため、人のためにがんばって道を切り開いてけるようになるんです」

夜の街にいたるプロセスのなかに、劣悪な家庭環境・低学歴・心理的影響・危機管理力の欠如などがある。児童福祉に携わる人々が行なっているのは、そうした悪影響から子どもたちを守り、自分やまわりの人を大切にする心を養わせるための取り組みだ。