木下拓哉と桂依央利の切磋琢磨がチームを強くする
やはり、いきなり谷繁さんのような百戦錬磨とはいきません。その意味で、木下に対して少し心配している点は、彼の優しすぎる性格です。
生き馬の目を抜くプロ野球の世界で、あの投打間18.44メートルは言わば“だまし合い”。僕が一緒にやっているときから、彼の優しさが随所で顔をのぞかせることがありました。
少し具体的に言えば「困ったら外角」「困ったら変化球」という無難な安全策を取る傾向があるのです。それは今年、ネット裏から木下のリードを見ても感じる部分でした。
谷繁さんがよくおっしゃっていたのが「1年間トータルで考えろ」という言葉でした。シーズン序盤は極端なリードで徹底して内角攻めをしたり、とにかく相手の主力打者に「嫌だな」という印象を与えるような配球が随所にあったのです。
そのあたりの老獪さこそ、今後、木下が身につけていかなければいけないスキルではないかと思います。
その一方、その木下を脅かす存在になりえるのが桂依央利です。太成学院大学高等学校から大阪商業大学を経て、2013年にドラフト3位で中日ドラゴンズに入団。桂のほうがプロ入りは早いのですが、木下とは同じ1991年生まれの同級生です。
彼は、とにかく苦労人でルーキーイヤーにイップスに陥りますが、それを努力で克服。2015年に47試合に出場、2016年には初の開幕1軍をつかみ59試合出場と出場機会を増やしていきますが、捕手としては致命的ともいえる左膝を負傷し、半月板縫合手術を受けました。
2017年は1年間をリハビリに費やし1、2軍ともに出場なし。復帰後も昨年6月には左有鉤骨鉤骨片摘出手術を受けるなど、ケガに泣かされ続けました。
そんな苦労人が、今季は福谷浩司が先発の際には、スタメンマスクで起用され存在感を発揮。大型捕手で強肩と強打が武器ですが、なにより木下にはない部分があります。僕も何度かバッテリーを組みましたが、試合後「なぜ首を振るんですか?」「あの場面でこの球じゃないですか?」と配球面などで食ってかかられたことが何度もあるんです。
そう、桂も木下同様に普段は優しい男ですが、気持ちの強さやリード面の老獪さという点では、今は木下よりも優れたところがあります。
とにかく、捕手陣に関してはレベルアップしているのは事実。同級生のふたりが切磋琢磨して盛り立てていくことが、チーム強化への近道といえるでしょう。