一般企業で働くのと比べると、いろいろな面で違う自衛隊での仕事。それが女性であれば、なおさら仕事とプライベートの両立に頭を悩ませることも多いだろう。昨今では、女性が働きやすい社会になってきてはいるが、男性社会のイメージが強い自衛隊はどうなのだろうか。防大女子である松田小牧氏が取材をもとに切り込む。
“マタハラ”が撲滅されてない自衛隊
女性幹部自衛官たちは、仕事とプライベートをどのように両立させているのだろうか。その質問に対して、子どもを持った母親からは残念ながら「両立できている」という答えは1つも得られなかった。「両立していない」「両立している人なんていない」――、口々にそう話した。
「みんな、両立に向かって頑張っているんだけどね」。ある現役自衛官はため息をつく。ほかにも「両方頑張ろうとしたら、どっちもダメになっていたと思う」「私は人生で自衛官をやっている」と話す者もいた。
「自衛隊には、ブラック企業みたいな長時間労働が“よし”とされる風潮が未だにある」と話す者は多い。
幹部として覚えなければいけないこと、考えなければいけないことも多いうえに、残業しなければ「あいつは仕事をしてない」とみなされる文化や、他の人がまだいるのに自分が帰るわけにはいかないという、一昔前の感覚が根深くはびこっている。このような環境でプライベートを重視するには、独身であっても気力が必要になる。
「プライベートでもやりたいことがあるから、そのために仕事をどうこなすかって観点で考えている」
「仕事は適当にやっていた。真剣にやりすぎれば両立は難しかったと思う。何を言われようが、自分の仕事はやるけど時間で区切るようにしていた」
続けている者からも辞めた者からも、このような答えが返ってきた。
さらに女性自衛官の場合、結婚相手が自衛官であるケースは多い。独身であれば、まだなんとかなったとしても、結婚して家庭を持つとさらに難しくなる。
幹部自衛官は、転勤や入校、長期の訓練などで家を空ける機会がかなり多い。結婚した自衛官同士が一緒に暮らせる保証はどこにもない。ある者は「ほとんど別居になることは、結婚したときから想定していた」と話す。
陸自同士であれば、まだ駐屯地も多く、市街地にほど近い場所にあったりもするが、海自や空自の基地は数が少ないうえ、特に空自の基地は僻地にあることが多い。また海自の場合は、どちらかが船に乗ってしまえば何カ月も帰ってこられない。そういう面で、勤務の厳しさでいえば、海自の船乗りが「別格」という声があった。
ある現役の海自幹部は、若いうちは男性と同じように船に乗りたいと熱望していた子も「結婚・出産して仕事と両立できるのか」という問題が自分のものになったとき「船はこれ以上は無理だ」と言う子が多いと指摘する。
両立の問題は、子どもを持ったときに“より顕著”となる。なかには「私は“女であること”は自衛官としてなんの影響もなかったけど、“母親であること”はやっぱり影響があった」と話す者もいた。
そもそも、子どもを持つことを逡巡することもある。
「子どもが欲しいけど、いろいろ学ばせてもらっているところで、今できると嫌な顔をされることが目に見えている」
「子どもができたら怒られることはわかってたし、実際に怒られた。だけど、つくっちゃったもん勝ち、と覚悟を決めないとつくれなかった」
これらは、一般社会では明らかに「マタハラ」と呼ばれる行為に当たると思うが、自衛隊ではまだ撲滅には至っていない。