一般の女子大生とはまったく違う世界に飛び込んだ「防大女子」。女性特有の悩みではないが、男性との感覚とは違うな、と実感した銃の定期訓練。そして女性特有の悩みである生理を、防大女子はどのように捉え、対処していたのか。松田小牧氏が実体験と取材を交えて語ります。
男とは違う生き物かもしれない、と思った銃の訓練
女性特有の悩みではないが、実体験を踏まえると、やや女性のほうが悩む割合が高いのでは? と思うものがある。それは「銃を撃つこと」だ。
防大では、入校ほどなくして「自分だけの銃」が手渡される。とりわけ2学年以降、陸上要員になれば訓練に銃は必須なので、取り扱いにはすぐに慣れるが、ふとしたときに、自分が他人の命を奪う武器である銃を手にしている現実に違和感を覚えることがある。もちろん、女子全員がそうだというわけではないが、銃を前に真面目に思い悩んでいた女子を私は複数知っている。彼女らはこう話す。
「私は他人に『銃を撃て』と命じられない、その重みに耐えられないと感じた。これは防大卒業後も悩んで、指導教官にも言いに行ったが『それを背負っていくのが幹部の仕事だから、向き合い続けなければいけない』と言われた。今も向き合い続けている」「ずっと銃を撃てるかどうか悩んできた。でも、部下ができて、今は部下を守るためなら撃てる、と思うようになってきた」
私自身、4学年の冬の定期訓練のことをよく覚えている。そのときに行ったのは「バトラー」と呼ばれる、銃からレーザーを発射することで行う実戦形式の訓練だった。これまでの訓練では、銃は使えども、目標は的ばかり。銃口管理については厳しい教育を受けており、銃口を人に向けることはなかった。それが、このバトラー訓練で初めて銃口を人に向けることになったのだ。
訓練地の草むらに身をひそめながら、こちらにやってくる「敵」に向け照準を合わせたことも、逆に「敵」と鉢合わせして至近距離で銃口を向けられたことも、強烈な印象として残っている。「これが実弾なら私は人を殺し、殺されていた」。そう思うと背中を冷たいものが流れていった。
なお、私の見る限り、そのバトラー訓練では男子はいつにも増して楽しそうに生き生きと訓練に臨んでいた。主観ではあるが、そのとき初めて「あぁ、男って戦うことが好きなんだな。女とは本質的に違う生き物なのかもしれない」とぼんやり感じた記憶がある。