防衛大学校の全学生に女子学生が占める割合はわずか12%。一般の「女子大生」とはまったく違う世界に飛び込んだ防大女子のリアルを、自身も防大女子だった松田小牧氏が実体験を交えて語ります。防大にはシーズンごとに何かしらの競技会があるといいます。体力錬成や団結意識の強化を目的にしている催しに、防大女子はどう取り組んでいるのでしょうか。
感慨深かった4学年時の「持続走」
防大には、かなりの数の競技会が存在する。1学年の隊歌コンクール、2学年のカッター競技会、3学年の断郊競技会、4学年の持続走、また全学年共通として水泳競技会、棒倒しと、シーズンごと常になんらかの競技会があるような感じだ。部隊に行ってからも競技会は多い。これは体力錬成や練度の向上、団結意識の強化といった効果があるが、それに加えてモチベーションの維持もあるだろう。
このなかで最も小規模なのが隊歌コンクールだ。要するに、軍歌の合唱コンクールで、大隊対抗ではなく、大隊ごとに実施されるなかでの小隊対抗、体を動かすわけでも声援を送れるわけでもないので、どうしても盛り上がりに欠ける。
人気の軍歌は「同期の桜」「抜刀隊」「出征兵士を送る歌」「軍艦マーチ」など。私の小隊は「抜刀隊」に加え、防大4期がつくり歌い継がれている「逍遥歌」を歌った。この「逍遥歌」は4番まであり、それぞれ1〜4学年を表している。防大同窓生の集まりでは、決まって最後に肩を組んで逍遥歌を歌う。何期生であっても「防大生」に戻る瞬間だ。
さて、この「逍遥歌」自体は格調高い名曲だと思うのだが、これには「前口上」と呼ばれる文句が存在する。
古き名門に生まれし乙女に恋するを 誠の恋といい
巷の陋屋に生まれし乙女に恋するを 誠の恋でないと誰が言えようか
雨降らば雨降るとき 風吹かば風吹くとき コツコツと響く足音
嗚呼あれは 防衛大学の 学生さんではないかと言うも客の手前 あまた男に汚されし唇に 今宵またルージュの紅を塗り 誰をか待たむ巷の女
酒は飲むべし百薬の長 女買うべし これまた人生無上の快楽
酔うて伏す胡蝶美人ひざ枕 明けて醒むれば昨夜の未練さらさらなし
たたく電鍵握る操舵機 はたまたあがるアンカーの響き
船は出て行くポンドは暮れる われは海の子かもめ鳥
小雨降る春の小原に 木枯らし吹きすさぶ冬の波間に
歌は悲しき時の母 苦しき時の友なれば
我らここにある限り 小原の丘にある限り
絶ゆることなき青春の歌 いざや歌わん
なんとも時代がかったものである。
学年別大隊対抗競技会として2学年に先に述べたカッター、3学年に断郊、4学年に持続走というものがある。カッターは4月末、断郊と持続走は同日の3月上旬ごろに行われる。4学年にとっては、持続走が終われば卒業に向け一直線となる。
断郊とは、8名で1組のチームをつくり、作業服に半長靴、背のう、水筒など約10キロの装備を身につけ、高低差約50メートル、距離7キロのコースを走るものだ。単なるマラソンではなく荷物もあり、チームで走るので、体力のある男子たちはいいが、体力のない女子を加えて優勝するためにはどういったチーム編成にするか、女子の荷物を途中で男子が持つか、いっそ坂は走らないほうが体力温存ができてよいのではないか、といった作戦が必要になる。
それに比べ、持続走競技はいわゆる駅伝で、5人1組のチームで1人5.7キロのコースを走り、タイムを競うというシンプルな仕組みになっている。これは断郊と異なり全てのコースが校内なので、走っている最中の応援がものすごい。私自身どこを走っていても応援の声が聞こえ、声のほうを見ると確かにこれまでの生活で関わってきた人たちがいる。私の4年間はこのためにあったのかと思うほど、幸せな瞬間でもあった。
ちなみに断郊、持続走のあとには「歓送会」と呼ばれる4学年生に向けての行事が行われる。部屋の1学年が4学年に着て欲しい仮装の衣装を作製し、その衣装を着た4学年が食堂内を闊歩し、皆でこれまでの労をねぎらうのだ。
仮装のクオリティにはだいぶ開きがあり、クオリティの高いものはいつそんなものつくる余裕があったんだ、そんな大きいものどうやって保管していたんだ、などと思うほどよくできている。また、毎年男子学生による女装も必ずあるが、足が引き締まっていて思ったより綺麗だと、少し悔しくもなるほどだ。