カワハギの「肝和え」のうまさに悶絶!

カワハギやウマヅラハギを市場で手に入れるときには、魚の目をよく見ることである。

昔から「目は態を表す」というのは、なにも人間界だけのことではなく、魚もそうなのである。よく澄んでいるものは間違いなく鮮度がよい。また、ぼやっとしていたり、しょぼくれていたり、目に白っぽい膜を張っていたりするものは絶対に買ってはいけない。

とにかくカワハギは、この目に美味不味の状態が宿るので、必ずパッチリと目開きしていて澄みきったやつを選ぶことだ。つまり言い換えれば、選び方次第でカワハギの肉や肝の味が決定されることになるのである。

目が澄んで身もぐっと引き締まって、ずっしりとした手応えのあるカワハギが手に入ったら、ルンルンと口笛など吹きながら家に持ち帰り、早速、下ごしらえに入るのである。

頭に突起している角状の背鰭の根元に包丁を入れて、それを切り落とし、その切れ目から指を入れて尾の方向に皮を剝ぎ取るように引っぱると、気持ちよく皮が剝げて丸裸になる。

▲カワハギ皮を剥いた姿。皮が簡単に剥がせることが和名の由来となっている 出典:ウィキメディア・コモンズ

腸(わた)を取り去り、肝は慎重に取り出して、あとはさまざまに調理して食するわけであるが、一度に何匹も手に入れて、明日も楽しもうなどと決め込んだときには、必ず皮を剝いでから冷蔵庫の中に保存することが鉄則だ。皮がついていると、時間を追うごとに生臭みが強くなり、また味もまずくなるからである。

それでも不注意でちょっと鮮度が落ちたものは、刺身にせず、厚めのそぎ切りにして、水気を切って湯引きの形にしてから、寄せ鍋・ちり鍋・椀種にすると、たいそう美味な高級料理となる。また、この魚を煮て喰うときには姿煮に限り、酒と味醂と醬油であっさり味に仕上げると格別だ。

▲皮剥(かわはぎ)の刺身「薄造り」 出典:youji / PIXTA

さて、いよいよ新鮮なカワハギの喰い方だが、先ずは淡泊な持ち味を生かした薄造りが最高である。それをポン酢でいただくと、特有のコリコリとした歯ごたえと上品な甘さが実に快(こころよ)いのであるが、なんといっても、その刺身に肝を添えて味わうのが秀逸である。

熱湯に少々の塩を入れ、そこに肝を入れて完全に火を通す。それをすり鉢で“すって”トロトロにしたものを、薄造りやあらいにした刺身にべっとりと絡め、醬油で味わうのである。

これが「カワハギの肝つけ」、あるいは「肝和え」というやつで、これはもうカワハギの喰い方の絶頂といったところで、そのあまりのうまさに悶絶したり気を失ったりする者もいるというほどである。

また、すり鉢に残ったトロトロの肝には、4分の1ぐらいの合わせ味噌を加えてすり合わせ、途中、砂糖・酢・酒で味を調えながら仕立てて、それでカワハギの刺身を和える「肝の共酢(ともす)」も、味覚極楽の境地を味わえるのである。

そして、とっておきが「肝の酢漬け」で、この喰い方は、カワハギ大好きの通人もほとんど知らない幻の料理法なのである。熱湯を完全に通した、形のままの肝を三杯酢に一週間ほど漬け込み、それを輪切りにして酒の肴とする珍味なのだが、これは実に風格のある味に仕上がり、その優雅さとコク味はあのフォアグラにも引けを取らぬほどのものなのである。

ところで、我が輩の考えでは「皮剝(かわはぎ)」という名のつけ方はどうも乱暴でいけない。あんなに肝が美味なのだから、いっそのこと「肝喰(きもくえ)」という名にしたほうがよいのではないかと思うが、どうだろうか。

▲カワハギの肝 出典:ウィキメディア・コモンズ

※本記事は、小泉武夫:著『肝を喰う』(東京堂出版:刊)より一部を抜粋編集したものです。