世界と日本のありとあらゆる奇食珍食を食べつくしてきた小泉武夫教授。自らを“発酵仮面”と称するほど、発酵食品の個性的な「におい」にも惹かれている。日本の発酵食品の代表ともいえるのが「漬物」。定食や酒の肴にも欠かせない「漬物」は、世界にもたくさんある。世界中の発酵食品に詳しい小泉武夫教授に、その中でも日本・中国・韓国の「漬物」について語ってもらった。
※本記事は、小泉武夫:著『くさい食べもの大全』(東京堂出版:刊)より一部を抜粋編集したものです。
西洋の漬物はオモシロ味が足りない
私はこれまで多くの人と出会ってきたが、くさいものが好きな人のほうが、そうでない人にくらべて人間力が高いことを実感している。まさに「人間くさい」のである。くさいものは生命体がつくる貴重な個性であり、自分の証なのである。生き様といってもいいだろう。
逆にいうと、くさいにおいを必要以上に嫌ったり、身の回りから遠ざけたりすることは、個性を失うことである。人間の本質は、においなのだ。現代の日本人は、人間の本質に逆らって生きているような気がしてならない。
私がこれまで世界中で口にしてきた漬物のもつにおいの強さは、東洋のほうが圧倒的に上位である、西洋の漬物のにおいはどこか品があり、食品としての枠内に収まっている。いい換えれば、ちょっとオモシロ味が足りない。
これに対して東洋の漬物はバラエティに富んでいて、猛烈に感動するほどくさいものがある。まずはわが国のくさい漬物自慢からしていこう。
日本の漬物は世界の中でもトップクラス
日本では北海道から沖縄まで、全国で600種類以上の漬物があるといわれている。漬け込む材料だけ見ても、野菜類、キノコ類、花やつぼみ、海藻類、肉類まで、とにかく多彩だ。なおかつ、漬け床の種類も豊富で、糠(ぬか)、粕(かす)、味噌、麴(こうじ)、醬油、みりん、たまり、米酢、もろみなど枚挙にいとまがない。
さらに漬け込む期間の長さによって、即席漬け、一夜漬け、浅漬け、古漬けなどに分類されている。世界の中で抜きん出た漬物大国といえる。
その中でくさい漬物といえば、やはり発酵させてつくる漬物だ。発酵漬物は一般に、材料についている乳酸菌と、材料に含まれる糖類に作用して発酵するのだが、このとき独特の強い発酵臭が生じる。
発酵させてつくる漬物は、酸味と塩味が利いていて、ごはんのお供として欠かせないうえに、野菜の栄養を効率よくとるのに最適である。
野菜を加熱するとビタミン類が壊れてしまうが、生だとたくさん食べられない。その点、漬物にすれば、大きなハクサイも小さくなって食べやすいし、糠漬けにしたものは野菜中のビタミンも増している。さらに、腸の働きをパワーアップする乳酸菌もいっぱい補給できて、いいこと尽くしなのである。