OECD(経済協力開発機構)の調査によると、2019年の各国の平均年収はアメリカ65,836ドル、ドイツ53,638ドル、韓国42,285ドル。日本は38,617ドルで韓国より少なくなっています。かつて「ジャパンアズナンバーワン」と謳われた栄光はどこへ行ったのか? 景気回復こそが“国守り”の道だと唱える、産経新聞特別記者の田村秀男氏が、そもそも経済成長とは何かを解き明かします。

※本記事は、田村秀男:著『「経済成長」とは何か -日本人の給料が25年上がらない理由-』(ワニ・プラス:刊)より、一部を抜粋編集したものです。

消費税の増税が勤労者家計を圧迫している

2021年の東京オリンピックでは、改めてスポーツの素晴らしさを教えてもらいました。アスリートの皆さんには感謝の想いを届けたいと思います。

さて、39歳のソフトボールの上野由岐子選手から、14歳のスケートボードの西矢椛選手や13歳の開心那選手まで、並みいる金メダリストに代表される幅広い年齢層は、いわば「新五輪世代」と言えるでしょう。今後の日本を背負ってくれることになります。

ところが、経済社会では多くの若者が頑張っても報われる環境に恵まれていません。政官エリートが25年にも及ぶ慢性デフレを放置してきたからです。

自由主義経済の原則は、万人が平等に働く場やビジネスに参加する権利を持ち、公正なルールのもとで切磋琢磨することです。オリンピック競技でも基本は同じです。1度の負けで次に進めなくなる競技は多いですが、敗者が復活できるゲームもあります。

現代日本の実社会に目を転じると、いまの若者や働き盛りの世代は、総じて然るべきハンディを背負っています。というのも、自身の才覚や努力が、所得や仕事の機会につながる土壌が脆弱だからです。

2000年から2020年までの平均月給を見てみると、30歳代から40歳代までどの年齢層も2010年まで下落傾向でした。2012年12月からアベノミクスが始まると、20歳代から30歳代は上向きましたが、40歳代は漸減傾向が続きました。

しかし、コロナ禍の2020年にはすべての世代で下がりました。同年の月給を20年前の2000年と比較すると、20歳代前半が7,500円増えただけで、30歳代前半が1万6,400円、同後半が2万7,700円、40歳代が2万5,500円の減少となっています。

▲消費税の増税が勤労者家計を圧迫している イメージ:CORA / PIXTA(ピクスタ)

働き盛り、子育て世代の給与所得は長期的に減る傾向になっています。新五輪世代が先行きを不安視して、子づくりに慎重になるのは無理もありません。

この賃金デフレをひどくしているのが消費税の増税です。2020年の消費者物価は、増税前の2013年に比べて5.4%上昇しています。まさに、消費税増税政策が物価上昇を引き起こしているのです。消費税の増税が、勤労者家計を圧迫しているというわけです。

このように消費税率が引き上げられると、一時的に物価が押し上げられ、家計は財布の紐をきつく縛ります。それで需要はさらに落ち込み、増税によって人為的に上がっていた物価は、急激にマイナスに転じます。

企業はどんなに収益があっても、内需が委縮していると国内での設備投資、賃上げや正社員雇用に慎重になり、人件費を節約できる非正規雇用に走ります。そして、家計全般の所得水準が下がって需要がさらに委縮し、デフレが加速します。完全な悪循環です。

経済成長こそがすべてを癒す

前回の東京オリンピックは、高度成長が始まって間もない1964年に開かれました。若者はオリンピックの熱気を追い風に就職し、毎年の賃上げを享受し、結婚し、マイホームを建て、子育てをしました。

▲経済成長すれば全てが解決!? イメージ: marchmeena / PIXTA(ピクスタ)

1960年代と違って、いまは少子高齢化だから、もはや経済成長は無理だ。消費税増税なくして社会保障財源を賄えない、こうした財務官僚の言い分を、メディアの多くがオウムのごとく繰り返します。

これは、根拠なき悲観論、フェイク情報です。確かに生産年齢人口(15歳~64歳)の層が薄くなると成長力が弱まるでしょうが、日本と同様、生産年齢人口が減っているドイツなど欧州では、プラス成長を長期的に保っています。

日本の名目国内総生産(GDP)の年平均成長率は、1995年度から2020年度までの25年間で0.08%とほぼゼロで、先進7ヶ国平均は2.5%です。一挙に平均並みの成長にしろ、と言うつもりはありません。なだらかにプラス成長を持続させればいいのです。

仮に日本が過去25年間、年平均でせめて1%成長していれば、2020年度の名目GDPは684兆円(現実には536兆円)になります。

これらのGDP拡大は絵空事ではありません。仮に生産水準(実質GDP)が横ばいであっても、インフレ率が1%、2%であれば達成できるのです。インフレ率2%前後は世界経済の経験則上、適正とされており、日本も政府と日本銀行共同の「物価安定目標」として、2013年以来、掲げているのです。

日本は、物価や賃金が下がり続けるデフレを四半世紀も放置してきたからこそ、得べかりし巨額の所得を失ったことになります。

毎年約1兆円ずつ増えると言われる社会保障費は、1%の名目成長だけで楽々とまかなえ、子育ても高齢者の年金生活も支えることができる。税収は着実に増え、政府債務のGDP比は大きく減り、グリーン投資への余力も生まれましょう。

日本国と国民が抱えている諸問題の解決への見通しが立つはずです。即ち、経済成長こそがすべてを癒すのです。