現在、防衛大学校で女子学生が占める割合はわずか12%。男性自衛官のみだった昔に比べると、多少は風通しが良くなったとはいえ、まだまだ世間的に認知度が低いとされる「防大女子」。自らも防大女子だった松田小牧氏が、防大OGや女性自衛官に取材。防大女子の未来は明るいのか?
男のサッカーチームに女が入りたいとは思わない
防大女子を取り巻く環境は目まぐるしく変化してきた。これからの防大女子はどうなっていくのだろうか。
ある現役の女性自衛官は、さる軍事学者の言葉を引きながら「男のサッカーチームに女が入りたいとは思わないって感覚と同じ」と、女性が主体になることはないと話していた。取材の中でも「典型的な指揮官像は変わらないだろう」という声は多かった。
正直なところ、私自身も「とはいえ自衛隊は男の世界だよね」という感覚が残ってはいる。だが防大も、当初は「厳しい環境だから女子は無理」と入校すらできなかったのが、実際に入校したところ一定の評価を得て、定員も増えた。問題なく、とは言い難いが、やってみればできたのだ。
少しずつではあるが、防大を去る女子の数も減っている。自衛隊においても「多様性を重視すべきだ」と訴える若手幹部も増えてきている。こびりついた価値観を払拭するのは容易なことではないが、挑戦しなければ女性自衛官の未来はない。
自衛隊という組織から見たときには、おそらく早急に防大や自衛隊の環境が整えられ、防大女子が自分の存在意義やプライベートとの両立に悩むことなく、いきいきと活躍できる――というあるべき姿が叶えられるのはまだ当分先だろう。
- 決して女性が働きやすい職場じゃない、まだ数十年は変わらないと思う。
- 自衛隊が変わるとは思えない。
このような声(特に陸上)は多く聞かれた。
自衛隊トップである幕僚長についても、みな「いつかは誕生するだろう」と口を揃えながらも、同時に冷めた目線も持つ。
- 最初はパフォーマンス的な要素が強いだろう。
- 政治的、国際的要素が関係する可能性が高く、多くの反対派も存在する。
- 理屈をこねるだけでは統率力に欠ける。自衛隊の本来任務は命がかかっているのだから、全末端隊員まで女性に命を預けられると思わせることは、よほどでない限り難しい。
防大でもトップの学生長が女子になると、女性を活躍させようと考える上層部の意向だの、親の威光だのと言われるが、幕僚長という自衛隊トップの地位に関しても、話は大きくなるが図式は変わらないのだなということが改めてわかった。
それでも、防大女子たちは着実に出世している。2021年8月現在、まだ防大出身の女性将官は出ていないが、一佐のポストには複数人が配置されている。防大卒の女性将官の誕生も時間の問題だと言われている。
「女には無理」という心ない言葉を、自らの力でねじ伏せてきた女性たちが力を得たとき、組織はさらによくなるだろう。自らの思いを力強く語ってくれた女性自衛官も多い。
- みんなが自衛隊を変えようとしている。まだあまり現場には届いていないけど、そのために現場で頑張っている。自分もトップに立ち、変える立場になりたい。
- 女性が働きやすい職場をつくるのも私の仕事。私が定時に帰るとか、そういう姿勢を見せることで、部下たちの意識を変えていきたい。
- 子育てで自衛隊をやめていった人たちが、子どもに手がかからなくなったら戻ってこられる制度をつくりたい。
女性自衛官の数も確実に増えていくだろう。
国も社会も防大女子たちの強さを生かしきれていない
「これからは自衛隊内で女性の占める割合が増えると思うので、重要なポストに女性が就くことはもちろん、結婚や妊娠、出産をしても続けやすくなると思う」
このように明るい展望を持つ幹部自衛官も複数いるし、両立のための制度も充実してきた。
また最近は、男性的なリーダーシップを目指すのではなく、女性らしさを伴ったリーダーシップを追求する女性自衛官も出てきている。近年の研究では、権力や権威をふりかざさず、メンバーの意見を聞き、状況に配慮することが有効なリーダーシップスタイルだと指摘する声もある。このリーダーシップは、かなり女性と親和性が高い。
ある現役幹部は女子にエールを送る。
「目まぐるしく技術が進歩し、複雑な価値観やパワーバランスの安全保障環境のなかで、既存の価値観や経験論では未来の戦いで負けないことは難しい。ロールモデルが少ないため、自分の存在自体を問いながら問題解決していく能力を身につければ、常に『これからどうする』という未来的思考を牽引しうる存在になれる」
防大女子の歩む道は、今までも、そしてこれからも、決して平坦な道のりではない。防大、ひいては自衛隊の環境は、女性にとって十分に整っているとは言えない。私自身、防大卒であることに誇りはあるが、誰にでも「成長できるから」と気軽に薦められる環境ではない。
これからもきっと多くの者が、自分自身や自衛隊という環境そのものに限界を感じ、あるいは仕事とプライベートとの両立に悩み、道半ばで自衛隊を去っていくだろう。
だが、残った者も去った者も、選んだ自分の人生を覚悟を持って歩んでいくだろう。どんな選択肢を取るにせよ、彼女たちには防大で培った「強さ」がある。
心身共に極めて負荷のかかる環境で過ごしたという自信、同期をはじめとする仲間と一緒に過ごしてきたことで得られた絆、国のために命を捨てるという教えのなかで育まれた精神。これらの経験から生まれた力は、彼女たちの人生を支えていく。
防大や自衛隊、そして社会は、まだ彼女たちの強さを生かしきれてはいない。環境が変わるためには、それぞれの努力も相当に必要となるが、諦めずに一歩を踏み出し続けることこそが、彼女たちの未来を、防大を含む自衛隊を、ひいては国そのものを、よりよくするものだと私は信じている。
※本記事は、松田小牧:著『防大女子 -究極の男性組織に飛び込んだ女性たち-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。