女性自衛官が退職の理由のひとつとしてあげるのが「ロールモデルの不在」だという。自衛官として幹部になり、家庭も充実させている人が周りには見当たらなかったことで、将来に不安を感じたと語る人は多い。また、ハラスメントなどの「組織の体質の古さ」を挙げる人も多いという。防大女子だった松田小牧氏が語ります。
周りの女性は独身か離婚した人ばかり・・・
任官拒否をした者や、1度は任官したがやめてしまった複数の者たちが「ロールモデルの不在」を退職要因の1つとして訴えた。
「幸せな幹部の姿を見ていれば続けていたかもしれない。自分は戦闘部隊の指揮官になりたかった。普通の生活を送って、夫とも協力しながら。でも、その“普通に働いて普通に認められる”ことが、このままじゃできないと思った」
「周りの女性は、独身か離婚した人ばかり。子どもが3人いるのに、仕事が好きすぎて離婚しちゃった人もいた。もし、その人が幸せそうに家庭も仕事も頑張ってたら、私の考えも変わっていたかもしれない」
「子育て女性幹部がマイノリティなので、参考になる人も、相談できる人もいなかった」
とはいえ、道を切り開いている女性たちもそれなりに存在する。彼女たちはロールモデルとして機能していないのか。
「部隊で出会った女性の幹部が、はつらつと仕事していて、その姿を見て乗り越えられた」。こう答えた者も確かにいて、女性自衛官の数が増えるほど、おそらくこういう声も大きくなるだろう。
だが、まだ今の段階では必ずしもロールモデルとはなっていないようだ。
「出世してる人たちは、みんな昔から『お前は偉くなる』とある種のレールを敷かれて、それに乗っかってこられた人たち。ロールモデルになることを苦と思っていない」
「むしろ、上ができすぎると『あいつは女だけどこれができたから、お前もできるはずだ』と言われてつらい。その人が特別優秀ってだけなのに、同じ土俵に立たせないでほしい」
「女性の先輩たちが、かなり家庭を犠牲にして今の地位を築いているからなのか、それと同じ道しか受け入れられていないように感じた」
後進のためにと開拓してきた女性からすれば厳しい意見だが、諸先輩方が頑張っている姿を知っているからこそ、かえって「ああはなれない」と考えてしまう者も多いようだ。
「子育て女性幹部がマイノリティなので、参考にできる人がいないこと、相談できる人もいないこと、その悩みを表面化させにいことはつらかった」と話す退職者もいる。
なかには「ロールモデルがいないなら、私がロールモデルになればいい」と力強く語ってくれた者もいた。ただ“特別に優秀ではない”と感じている女子たちにとっては、まだまだ苦難の道が続きそうだ。