防衛大学校に入学した女性、いわゆる「防大女子」だった松田小牧氏が、防大女子や女性自衛官の本音に迫ります。志半ばで防大や自衛隊を辞めた防大女子たちは、その後どのような人生を歩んでいるのでしょうか。

防大女子の就職活動はうまくいかない?

防大、自衛隊を辞した彼女たちは、その後、どういう道を歩んでいるのだろうか。

大学へ行き直した者、結婚して専業主婦になった者、子育てを優先しながら働いている者、家業を継いだ者、バリバリ働いている者、自分で事業を興した者などさまざまだ。

「男子よりも女子のほうが、辞めたあとの進路は幅広い」という声が上がる一方、案外「名の知れた大企業でバリバリ働く」ケースはそこまで多くはない。

周囲を見渡すと、男子学生のほうが「民間でのし上がってやる」という気概があるように思われる。男性では有名どころでいくと、学研ホールディングス社長、日本電産社長、元グッドウィル・グループCEOなどがいるが、それに比べると女子の卒業生で、その存在を内外に知られるほど目立って活躍している、という者は知らない。

体育会系(というか紛れもなく軍隊)出身の女子なのだから、いつの時代でもある程度の需要はありそうなものだと思うのだが。

その理由はいくつかあるだろう。まず前提として、女子が入校してから30年ほどしか経っておらず、そもそも人数が少ないということはある。それを除くと、やはり自衛官と結婚するケースが多く、幹部自衛官であれば数年に1度の転勤がつきもので、どうしても家庭を優先することになる点が大きい。

結婚を理由にしないものとしては、まず防大女子はあまり就職活動がうまくない、という点がある。そもそも防大は就職活動を禁止している。自衛隊以外のことを考えられない環境、かつ真面目に防大生であろうとする女子が多いなかで「私にはこの仕事が向いているかも!」と思うようになることすら難しい。

また、情報を集めようと思ったところで、ネット環境も悪い。それぞれパソコンを所有してはいるが、自習時間になると、途端に回線が重くなる。

今はスマホが普及しているため、とりわけ四十期代からは「スマホがあればまた全然違うだろう。私たちの期は本当に情報から隔絶されていた」との声も聞かれたが、結局のところ、今であっても共に就活をする友人もおらず、インターンへの参加なども難しいため、情報量はやはり一般の大学生とは雲泥の差だ。

▲そもそも就活とは無縁の防大なので… イメージ:xiaoping / PIXTA
  • 就活禁止なのに『防衛大学校です!』と自己紹介することに疲れて就活をやめた
  • 企業にエントリーしても、土日しか外に出られないので面接を受けられない
  • そもそも特別にやりたいことがないから防大に来たわけで、この環境でほかにやりたいことが見つかるはずもなく、企業の選び方がわからなかった

といった意見が挙がるほか、防大や幹部候補生学校で辞める者の中には、自分に自信を失ってしまう者も多く「大企業で自分が通用すると思うほどの熱量がなかった」と話す者もいる。

もちろん、そのなかでも「指導する立場に立つ人を見て、客観的に分析する機会はたくさんあったから防大はとてもよかった。同じ班員でも班長(指導教官)次第で、その班の雰囲気もレベルも士気も変わって、訓練の成績も全然変わるのを経験したからこそ、マネジメントの重要性を強く感じている」と話し、誰もが知る大手企業に勤めている者もいるが、そういう感覚を持って防大生活を過ごし、かつ辞めていく者は少数派だ。

「防大卒の幹部自衛官」と言えば、自衛隊の中ではエリートのはずだが、比較する対象に乏しく、優秀な同期らとだけ己を比べてしまう女子には「自分がエリートである」という意識は想像以上に薄い。

▲もちろん「防大卒」の経験を生かす者もいる イメージ:Ran&Ran / PIXTA(ピクスタ)

とはいえ、「防大卒」の肩書きは、その後の人生に役立つことは多いようだ。

  • 私は周りよりもキツいことをやり遂げたんだというバックグラウンドができた
  • 打たれ強くなって、自信がついた
  • 人間的に成長できた
  • 今は専業主婦だが「私はまだやれる」という思いが心の中にある
  • 防大卒と言うと一目置かれ、期待を裏切らなければ高評価を得られる。他の大学ではこうはならないだろうと思う
  • 自己紹介をするときのネタになる

これらはいずれも男だとか女だとか、関係のない事柄ばかりだ。