「マンボウの肝揉」はコントラストを味わうべし

肝揉のなかで、最も興味をそそられるのが「マンボウの肝揉」である。マンボウ(翻車魚)はフグ目マンボウ科に属する魚で、体は半卵円形で平べったく、よく海上にぽっかりと浮かんで漂流している。巨大な魚で、全長2.5〜3メートル、体重500〜600キロもあり、漂流しながら口をパクリ、パクリと開けて、海上に漂っているクラゲを主食にして生きている。

▲南国の海を泳ぐカクレマンボウ 出典:Mayumi.K.Photography / PIXTA

海面を浮遊しているものを通りがかりの漁船が漁獲する程度なので、水揚げ量は少ない。皮が厚いので肉量は少ないが、その肉は目が冴えるほどの白身で、味は淡泊で歯ざわりがとてもよい。

食べ方は、刺身またはサっと湯がいたものに酢味噌をつけて食べるが、胃袋を小さく切り分けて串に刺し、塩焼きとしたものは、特有の歯ざわりが楽しめ人気がある。 

▲マンボウの串焼き 出典:jun / PIXTA

我が輩は小学生の頃、磐城(現・いわき市)の小名浜の市場や、四倉(よつくら)で水揚げされたばかりのこの魚を見たことがあるが、その巨大な姿に声も出ず、啞然としたことを昨日の出来事のように思い出に残っている。

そのあとは、この魚をよく食べる機会があったので、今でも思い出しては昔の味を懐かしがっているが、やはり当時よく食べた肝揉の味は、未だかつて脳裏から離れられないでいる。マンボウを食べる所は少なく、千葉県や茨城県、福島県の磐城がよく知られる常食地であるため、この地方ではマンボウを食べないと夏が来た気がしないという人も少なくなかった。 

さて、その「マンボウの肝揉」のつくり方は、市販されているマンボウの肉に塩をまぶしてよく洗い、食べやすい大きさに肉を切り分ける。マンボウの肉は肝と一緒に売られているので、その肝をボウルに入れ、味噌と混ぜ合わせる。

このとき、手でやわらかく、やさしく混ぜ合わせることが肝心で、棒ですり混ぜたり、箆(へら)で潰すようにして混ぜたりしたのでは、脂がべっとりと浮きあがり、食べられない状態になってしまう。その上手に混ぜ合わせた肝と味噌のタレに、マンボウの肉を入れて和えれば出来上りである。

それを食べると、マンボウの刺身のコリコリ、シコシコとした歯応えのなかから、淡泊なうま味が湧き出してきて、そこにコッテリとした肝からのコクと濃いうま味がまとわりついて絶品である。この場合、マンボウの身のどこまでも淡泊な味と、肝の底なしなほどの濃厚なコクとうま味の対比、すなわちコントラストを味わうことが大切である。

※本記事は、小泉武夫:著『肝を喰う』(東京堂出版:刊)より一部を抜粋編集したものです。