「世界一の肝喰い」を自認する小泉武夫教授が、これまで食してきた肝のなかから“絶品肝”を取り上げ、その扱い方や食べ方、肝の魅力を述べつつ肝料理談義を展開。今回はオヒョウ・サメ・オコゼなど見た目に特徴にある魚の肝について。

オヒョウやサメの肝油は体にいい健康食品

大鮃(オヒョウ)は巨大な鮃(ヒラメ)で、寒海の深所に棲み、体長2.5メートルにも達するものがある。ベーリング海やオホーツク海でよく獲れ、北海道でも漁獲される。

肉は美味で刺身・煮つけ・蒲鉾の材料となり、その肝臓から採った肝油には、不飽和脂肪酸やスクワランが含まれており、体に大層いいということで、今日では天然医薬品や滋養強壮品の原料にもなっているとのことである。 

我が輩は、函館の友人の料理屋で、茹でた大鮃の肝を味噌と共にすり鉢ですった肴をいただいたことがあるが、そのときの味はちょうど鮟肝の共和えに似ており、ひと口嘗めては、辛口酒を飲み、飲んではまた嘗めて、一晩中騒いで朝を迎えたことがある。

▲オヒョウはカレイ目で最大の種類で体長2mを超える場合もある(1939年) 出典:ウィキメディア・コモンズ

肝油といえば、大鮃など問題にしないほど大量に利用されているのが鮫である。肝油はビタミンAやビタミンDなどの脂溶性ビタミンを多く含み、またDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの不飽和脂肪酸を多く含むので、血中コレステロールや中性脂肪を減少させる効果を持っている。 

最も多く使われているのはアイザメ(藍鮫または相鮫)で、日本では東京以南の深海、特に相模湾や高知沖で多産される。この全長1メートルと小形な鮫は、肝油が採れるだけでなく、肉は練り製品(蒲鉾や竹輪など)の原料にもなり、とりわけ肝臓が美味で、さまざまな料理で珍味にされる。

特に新鮮な肝は、刺身として賞味し、ポン酢和えもおいしい。肝をひと口大に切ってから、牛乳に30分ほど漬けて臭みを抜く。それをよくボイルして火を通し、ポン酢で和えて食べる。その味はフォアグラまたは鮟肝のように濃厚でクリーミーでうまい。

また、この鮫の肝は鶏のレバーに似ていることから、ニンジンや里芋などと共に煮物にしても大層美味である。肝の甘辛煮や唐揚げでも賞味されている。

アイザメに限らず、日本では昔から鮫をよく食べてきた。最も美味とされるのがシロザメ(全長80センチ、北海道以南)で、南九州では身を茹でたものに酢味噌を付属してパックされている「ゆでぶか」が有名で、「ふかゆがき」の名でも市場に出てくる。その肉の脇に、肝の切片がついているものなどあり、大変おいしい。

▲シロザメ 出典:kamemusi / PIXTA

ホシザメ(体長1メートル、北海道以南)もシロザメに劣らずおいしい鮫で、新鮮なものは刺身で賞味しても実にうまい。アカシュモクザメ(体長2メートル以上、南日本太平洋側)も、前出の2つの鮫と同じくアンモニア臭がなく美味魚である。

鹿児島県に行くと、この鮫で「ゆでぶか」をつくったり、「ふか皮」で売っている。この鮫の皮を茹でて酢味噌で食べると、コリコリ、シコシコとした食感が楽しめる珍味である。このアカシュモクザメは、薩摩揚あげなどの練り製品の優良な材料にもなる。この鮫の肝も、しっかりと湯煮してから酢味噌で食べると、芋焼酎の肴に理想的である。 

カマストガリサメ(体長1.5メートル、世界中の温帯海)もおいしい鮫で、この魚も鹿児島では薩摩揚げの重要な原料にしている。その際、副産物として出た肝は、唐揚げにしたり、黒糖で甘辛煮にして食べたりしている。

サカタザメ(体長60センチ、南日本海)はエイ(鱏)の仲間の魚であるが、その刺身の歯応えは甚だよろしく、これを酢味噌で食べたり、肝和えで食べられて、薩摩焼酎のうれしい肴になっている。

▲南九州では「ゆでぶか」として有名 イメージ:youji / PIXTA