こだわりを英語にするとSticking(スティッキング)。創作におけるスティッキングな部分を、新進気鋭のイラストレーターに聞いていく「イラストレーターのMy Sticking」。

今回は、面白くてワクワクする、そんなちょっとおかしな建物を描いた作品集『ヲかシな建築』が話題の埜々原さんに、創作のうえでの「Sticking(こだわり)」を聞いてみました。

「クリエーターズマーケット」での衝撃

――このインタビューではイラストレーターの方々にこだわり、Sticking(スティッキング)を聞いているんですが、もともと埜々原さんは子どもの頃から絵を描くのが好きだったんでしょうか?

埜々原 いえ、そんなことはなくて、高専という工業系の学校に通ってたんですけど、学生の頃はずっとアルミの塊をノコギリで切る、みたいなことをしてました。ガッツリものづくり、みたいな。

――そうなんですね、それがどうやってイラストレーターに?

埜々原 就職してからも、ものづくりが続けたかったので、自動車会社に就職したんですけど、全然想像していた感じと違ったんです。イメージ的には、油にまみれたりしながら愚直に泥臭くモノを作っていく、というイメージだったんですけど……。自分のリサーチ不足だったんですけどね。

――もっとシステマチックな感じですか?

埜々原 そうですね。ひたすら書類を作って、仕入先に送って「期限はいつまでにお願いします」とか「まだできないですか?」みたいな電話を繰り返す毎日で、それがツラすぎて……。

――ものづくりとは180度違いますよね……(笑)。

埜々原 そうして不本意な毎日を送ってたんですが(笑)、当時、愛知に住んでて、そこで「クリエーターズマーケット」っていう「デザインフェスタ」のようなイベントが開催されていて、行ってみたら“なんだこの面白い世界は!”って感銘を受けまして、自分も出てみたいな、じゃあ手っ取り早く絵を描いてみようかなって。そこからですね。

――え! それくらいの軽い感じだったんですね!

埜々原 はい(笑)、最初はポストカード用の絵を描いてたんですが、当時はpixivが流行りだした頃で、そこで背景や風景を専門に描いているイラストレーターさんの存在を知って。自分も、この方々みたいに脳内にあるものを可視化していきたいな、という気持ちが強くなりだして、そこからちょっと本気で志してみようかなって感じです。

▲当時、初めて描いたポストカードのイラスト

――イラストを描くにあたって、どこかに通ったりとか、どなたかに習われたりなどはしたんですか?

埜々原 いえ、完全に独学ですね。普通に会社勤めを続けながら、ネットの情報とかを頼りに独学で学んでいった感じなので、本気でやってみようかなって思ってから、まだあんまり経ってないんですよね。やっと今で10年くらいですかね。

――それでも独学でやられたってのがすごいですね!

「萌え建築」のきっかけは邪な気持ちから?!

――埜々原さんといえば、自然と共存する建築物を描く「#萌え建築」が持ち味だと思うんですが、この「萌え建築」に着想したキッカケは?

埜々原 ゲーム会社のコンセプトアートを担当したことがあって、メインの絵のほかに、追加でチャチャッと脇の余白に絵を描いたんですが、そのいい意味で雑さ、時短して描いたそっちの絵が自分の中では「いいな」って思って。自分のTwitterにそれと同じテイストの絵を載せてみたら、かなり反応あるし、コスパいいなって(笑)。そんな邪な気持ちも少しあったんですけど(笑)。

――でも、その域に達するまでが大変ですよね。最初に伺ったお話とリンクしてくるんですけど、埜々原さんの中で“自分が前のめりになってできるか”というのが大事なんだろうなと思いました。

埜々原 そうですね。これは自分の座右の銘、いうなればスティッキングにあたるのかもしれないですけど、『自分に正直でいたい』。これは大事に思ってます。

――『ヲかシな建築』を読ませていただいて、建築って無機物なものですが、埜々原さんの萌え建築からは、そこで暮らしている人たちの生活が見えるのが良いなと思いました。

埜々原 ありがとうございます! まさに今おっしゃっていただいたように、建築って本来は無機物なものではあるんですけど、それを絵の中で“まるで生きている”かのように感じてもらうためには、そこに住んでいる人々の生活が見えるように描くのが大切だと思ってて。なので、見ている側が「普段どういう生活しているのかな?」「こんな場所にどうやって建てたのかな?」と想像できるフックとなる要素を入れ込もうっていうのは意識しているし、こだわりにあたるのかもしれないですね。