メンタルタフネスがあきらめない気持ちを生む

2017年に私が女子日本代表のヘッドコーチに就任したとき、まず手をつけたのはメンタルの部分でした。国内リーグでは「誰にも負けない」という強いメンタルを持っている彼女たちですが、世界の、特に強豪国といわれるチームと対戦すると「100%勝つ」という気持ちが足りなくなるのです。

世界で勝つためにはメンタルタフネスが必要不可欠です。このメンタルタフネスこそが、絶対にあきらめない気持ちを生み出します。ただしメンタルタフネスはスプリント、つまり短距離競走のように、その瞬間だけ強ければよいというものではありません。メンタルタフネスはマラソンです。

女子日本代表のトライアウト、最終メンバーを決めていくためのキャンプは、東京2020オリンピックの直前であれば2カ月半にわたるものでした。途中で所属チームに戻る時期もありますが、それでも一定期間、まとまった時間をともに過ごすキャンプになります。

メンタルタフネスのある選手は、その決して長いとは言えないキャンプ期間中にも、少しずつステップアップしていきます。

逆にメンタルタフネスの弱い選手もすぐにわかります。キャンプの中で、だんだん声が小さくなったり、プレーが消極的になったりするからです。私の練習は体力的にも、判断の負荷という面でも、難しいものがあります。所属チームとは異なる難しい練習をしていくと、メンタルタフネスの弱い選手はどんどんと落ち込んでいくのです。

それに対して、私が何か特別なことをすることはありません。もちろんコミュニケーションは取ります。私が彼女たちを信じていると伝えることで、彼女たちのメンタルが上向けば、それはそれで良いことです。またさまざまな練習や試合を通してチャレンジさせ、それでメンタルタフネスが上向くかを見ることもあります。

しかし最終的には選手たち次第です。自分がどうしたいのか。どうなりたいのか。強い気持ちでキャンプに臨み続け、結果を勝ち取る気持ちがあるのか。それらを自分で決断しなければなりません。

もちろんメンタルタフネスは、ご両親から授かったDNAであるかもしれません。町田瑠唯はそうしたメンタルの強い選手でした。普段は言葉をあまり発せず、自信を表に出すタイプでもありません。自分の実力を誇示する選手でもありません。でも彼女はメンタルが強い。決して逆境であきらめるタイプではないのです。

私はアシスタントコーチ時代を含めると、女子日本代表で8年間コーチングをしてきました。そこで多くの選手たちと接しながら、彼女たちの実力や勤勉さ、努力を惜しまない姿勢をつぶさに見てきました。それらを見て、時間はかかるけれども、彼女たちなら世界で通用するメンタルタフネスを身につけることができると思いました。就任時に目標を「東京2020オリンピックで金メダル」とした理由は、そこにもあります。

これは何事にも通じるのではないでしょうか。あきらめなければ、きっとどこかに次のチャンスがある。そのチャンスを見逃さずに、思い切って次の一歩を踏み出す。そこから自信が生まれ、目標にも近づいていけるのです。

東京2020オリンピックで銀メダルを獲得した選手たちを見て、改めてそう思いました。あきらめたら、そこで試合終了です。

▲メンタルタフネスがあきらめない気持ちを生む イメージ::アスファルト スタンコヴィッチ / PIXTA