プロ野球選手としての現役時代だった2005年、補殺数トップの12補殺という記録を残した元阪神タイガース不動のセンター・赤星憲広氏。しかし、その称号はある意味「不名誉」でもあるという。補殺数が多いということは、ランナーにどう思われているということなのか? 外野手がランナーに与える印象の重要さについて解説します。
※本記事は、赤星憲広:著『中堅手論』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
新庄剛志はランナーを“あえて”突っ込ませた
僕は外野手になったのが比較的遅いし、誰かを目標にして外野手になったわけでもない。外野手の守備としてのタイプが全然違うので、正直、イチローさんの真似をしようとは一度も思わなかった。
イチローさんは強肩で、捕ってから投げるまで、しっかりモーションを取って投げるタイプ。だから正確だし、球も強いというメリットがある。
逆に、捕球から送球までフォームが大きく、多少遅れるデメリットもある。強肩のイチローさんだからこそ、あの投げ方を選択できるのだろう。
僕は「外野手としての目」と「走者としての目」の両方の立場から、外野手のプレーを見ている。外野手は、ランナーに「どう思わせるか」が重要だ。
新庄剛志さんは阪神のセンターの先輩で、守備が非常に素晴らしかった。
新庄さんはランナーに三塁を回らせるために、意図的に1歩目のスタートを遅らせていた。三塁コーチが「お、いける!」と、ランナーを本塁に突っ込ませたところをバックホームで刺すのだ(補殺)。
一方、僕は新庄さんほど強肩ではなかったので、ありったけのスピードで打球にチャージした。三塁コーチがそれを見たら、思わずランナーを止める。僕はランナーを絶対にホームに突っ込ませない方法を取った。
つまり、正反対のスタイルだ。
補殺数は強肩度を示す指標と言われるが、実は「補殺数」=「強肩」とはならない。アテにならない。
「セーフになるだろう」と思って、ランナーがホームに突っ込んでいる回数が多いわけで、その分、結果としてホームで刺す(補殺)数も多くなっている。語弊はあるが、ナメられている部分もあるのだ。
本当の強肩なら、ランナーはホームに突っ込むのを自重する。たとえば、鈴木誠也選手のところに打球が飛んでも、守備力・強肩を考えたら無理をして突っ込まない。ホームに突っ込む回数が減る。必然的にホームで刺す(補殺)数も減る。
ルールが変更となり補殺数は減った
だから、僕の現役時代、2005年の捕殺数トップ(12補殺)という事実はある意味、名誉でもあるし不名誉でもある。
僕は、補殺数が多かった翌年は、まずチャージを強くしてランナーを突っ込ませないことを考えた。もし突っ込まれたら、捕ってからの送球を早くして刺すことを心がけた。
僕はすでに引退していたが、16年から「コリジョン(衝突)ルール」が採用された。ボールを持っていない捕手が、ホームに向かってくる走者の走路をブロックする行為を禁じるものだ。そのため、このルールが採用されてからはランナーを突っ込ませる傾向が強く、補殺数自体が減っている。