現役時代は浦和レッドダイヤモンズに在籍し、日本代表ではMFとして活躍した鈴木啓太氏。現役引退後はAuB株式会社を立ち上げ、アスリートの腸内環境を研究し、一般の方々にも取り入れやすい形でそれを提供しています。現在は順調に実績を伸ばしていますが、過去にはあと2か月で倒産する、という崖っぷちを経験しているという。その危機をどう回避したのか、そして今後の展望についてお聞きしました。
倒産の危機を救った業界用語とイーロン・マスク
新保 今は発売からわずか9か月で、1万個を売り上げるサプリを開発するなど、知名度もどんどん高くなっていて、経営も順調そのものなAuB株式会社ですが、一時期は経営の危機があったとか……?
鈴木 あと2か月で資金が底をつく、ということがありましたね。あのとき、知り合いのある方に相談したんですけど、その方が僕に会うなり「お前ひどい顔してるな」って。そりゃそうですよね、資金調達するためにさまざまな企業にプレゼンに行ってるのに、色よい返事がもらえたらいいですけど、このままだともう少しで会社が潰れちゃう、ってときなんですから(笑)。そこで「うまくいかないんです」ってことを説明したら、「お前、タルメンがちゃいちーだな」って言われたんですよ。
新保 え? タルメンがちゃいちー?? 業界用語???(笑)
鈴木 はい。メンタルが小せえなってことなんですけど、そのときは“この人、ふざけてる場合かよ。大変なんだよ、こっちは!”と思って(笑)。でも、そこから僕の話を詳しく聞いてくれて、その人は「大丈夫だよ」って。そしたら、もう1人その場にいた方、その方もビジネスで成功されている方なんですけど、「そんなにいろいろ考えてるんだったら大丈夫だよ」って言ってくださって。“なんだよこの人も”って思ったんですが、そこで自分が本当に酷い顔してることに気づいて。
新保 そんな状況なら、そういう顔になっちゃいますよね。
鈴木 はい。でも、こんな顔してるやつがプレゼンしても、どんなに内容が良くても、取引相手は信用できないだろうなって思いました。
新保 たしかに!
鈴木 あと、そんなにいろいろ考えてるなら、それを全部行動に変えなさいってことを言いたかったみたいなんです。悩みも“プレゼンした資料に先方からダメだしされたんですが、それをどう直せばいいですか?”みたいな悩みだったら良いけど、ただ漠然と悩んでても時間の無駄だよって。
新保 なるほど、どうせ悩むなら、建設的に悩めってことですね。
鈴木 はい。そもそも、その人たちは僕に上手にできることを求めてない、小さくまとまるな、自分がイーロン・マスクになったつもりでやってみろって。そこからすぐに片っ端から企業にアポを取ってプレゼンして、本当ギリギリのところで決まったってだけの話なんです。たぶん、自分の持つ能力は変わってない。心の持ち方が変わったときに景色が変わった、そんな感じですね。
新保 「ニュースクランチ」は、鈴木さんと同年代のビジネスマンの方がよく読まれているので、その心の持ち方は参考になると思います。
鈴木 万人に当てはまるか、というとそうじゃないかもしれません。ただ、みんな頑張ってるのは一緒じゃないですか。頑張ってるのはわかるけど、つらそうな表情をしている人にお金を賭したいかというと、またそれは別の話。
新保 そうですね。「大丈夫」と言っていた先輩の方々は、その後なんと言ってましたか?
鈴木 「そうだろ?」くらいの軽い感じです(笑)。でも、その方々も一から起業して、今ものすごい会社を経営されている。やはり考え方も突き抜けているし、自信にも満ちあふれている。そのためには見えないところで、すごくやり切っているんだろうし、その自信のもとになっているのは、自社の製品であり、サービス。それはとても参考にさせてもらってます。
新保 AuBさんは、名だたる企業さんと一緒にやってらっしゃると思いますが、ここからどういう発展をさせていきたいとかはありますか?
鈴木 もちろん、さまざまな製品を発表していきたいですし、商品展開を増やしていくというのはあります。ただ、うちの会社の強みというのは、データとコミュニティだと思うんです。スタジアムに行く元気がない、というところから着想している、と話しましたが、サッカーはその地域に根づいて、活性化させるのも大きな役割です。
サッカーと同じように、AuBも自分たちのプロダクトによって地域を活性化させたい、そのために何ができるだろうか。ひとつ考えているのは、街の中のソフトになることです。PCの中にインテル入ってるみたいな感じで、欠かせない存在になっていきたいなと思います。
新保 サッカーに携わってきた立場としての考えが、そこで反映されているわけですね。
鈴木 はい。情報ひとつとっても、子どもたちに有益なデータもあれば、高齢者に向けて有益なデータもありますよね。大事なのは適切な情報にアクセスできること。そして、それを独り占めするのではなく、より多くの企業、人々と共有していくことだと考えています。