現役時代は浦和レッドダイヤモンズに在籍し、日本代表ではMFとして活躍した鈴木啓太氏。現在はAuB株式会社で代表取締役として、アスリートの腸内細菌の研究をもとに、科学的アプローチに基づいた「菌を摂る・育てる・守る」のメソッドを、一般の人々にも取り入れやすいかたちで提供している。サッカー選手からバイオベンチャーへの転身はどういった経緯で行われたのか、話を聞いてきました。
母の教え「毎日自分がした“うんち”を見なさい」
新保 鈴木啓太さんが「アスリートの腸内細菌」の研究から、独創的な商品を開発・販売する会社をされていることを知って驚く方も多いと思うのですが、そもそものきっかけを伺っても良いですか?
鈴木 アスリートの腸内細菌を研究する、というプロジェクトは2015年、私が現役最後のシーズンから始めていたんですが、もともとなぜここに目を向けたか、というのはもっと前の「ファンの声」がきっかけでした。
新保 鈴木さんが現役を過ごされた浦和レッドダイヤモンズは、熱心なサポーターが多いですよね。
鈴木 そうなんです、2010年ごろには1試合平均4万5000人の観客動員を誇っていたのですが、それが2013年ごろになると、3万5000人くらいまで落ち込んだんですね。私はチームが魅力的なサッカーをできていないからなのかな、と思っていたんですが、あるときサポーターの方と話す機会があって、観客動員の話をしたところ「もっと良いサッカーをしてください!」って言われると思ったら、違ったんです。
新保 なんと言われたんですか?
鈴木 その方は「Jリーグが始まってから20年近くなって、その頃40代だった自分も今は60代。単純に体力が続かないんです」とおっしゃって。私の両親も静岡から試合を見に来てくれていたんですが、疲れてるときや次の日が仕事とかだと「早く帰りたい」と言ってたなって(笑)。
新保 たしかに、好きなことをやるのにも体調は大事ですもんね。
鈴木 そうなんです! 元気がないと、好きなことすら億劫になってしまう。だから、ヘルスケアという分野に関して、このプロジェクトを始める前から関心はあったんです。そこからアスリートの腸内細菌を研究する、ということに至ったのは、さまざまな方との出会いや言葉に加えて、両親の教えもあったんです。
新保 お伺いするところによると、お母さまがとてもお腹のケアに熱心だったと。
鈴木 はい。母がもともと調理師なんですが、子どもの頃から口酸っぱく「人間は腸が1番大事」と言っていて。もっと具体的に言うと「毎日自分がした“うんち”を見なさい」と(笑)。
新保 アハハ!(笑)、でも大事なことですよね。
鈴木 今となってはそう思えるんですけど、子どもの頃だから、右から左に流してて、「今日はどうだったの?」って聞かれても「うーん」って生返事(笑)。そこから今度は、中学から高校に上がるタイミングだったんですが、腸内細菌の入ったサプリメントを飲むように言われて。
新保 すごい! 熱心ですね。
鈴木 今でこそプロバイオティクス(人体に良い影響を与える微生物(善玉菌)、または、それらを含む製品、食品)はポピュラーですけど、当時はそこまで主流ではなくて、しかも高校は寮生活だったので、そのサプリを飲んでると、友人が言うんですよ「それ何?」って。だから、私も「ビタミン」って答えてて。正直に「細菌を飲んでる」っていうと、頭おかしくなったって思われちゃうかもなって(笑)。
新保 当時だとびっくりしちゃうかも……(笑)。
鈴木 ですよね(笑)。今思い返すと、小さい頃から発酵食品がよく食卓に並んでいたんです。納豆、ぬか漬け……静岡なのでお茶と合いそうな、子どもがあまり好まなそうなものをよく食べていました。
新保 鈴木さんのバックグラウンドとして、そういう素養があったということですね。
鈴木 母親からは「恥ずかしいからその話はやめてくれ」って言われてるんですけど(笑)。このプロジェクトに関しては、腸内細菌を整えて、現役時代を支えてくれたサポーターの皆さん、地域の皆さんが健康になってくれたらいいな、という想いが強いです。「最近の流行りだから始めたの?」って言われることもあるんですが、そんなことはなくて。気づけばずっとそばにあったものですね。