芸人を選んだ時点で食えると思ってなかった

現在は想像していた未来を軽く飛び越えて幸せな日々を送っている、と語る高木。そんな彼が思う人生の土壇場はいつだったのだろうか。

「やはり、この本にも出てきますし、ネットでもちょっと話題になりましたけど、サイン会に人が1人も来なかったときですね」

2014年8月3日、町田モディで行われたジョイマンのサイン会に来たファンが0人だった。これは『ジョイマンサイン会0人事件』として当時、ネットでも大きく取り上げられた。

▲Twitterより

「このときまで、ずーっと崖から落ち続けている心境だったんですよ。真っ暗闇の中、落ちながら、もう底につくだろうって思っても、まだ落ち続ける。え? どこまで落ちたらいいの?って思ってました。“サイン会やってます”ってツイートを、閑散とした写真と一緒にあげたんですけど、そのときもまだ吹っ切れてはいない。むしろ、こういうふうに吐き出さないと耐えられないって状況だったんです。本当だったら恥ずかしいですよ、こんな瞬間。

『ジョイマンサイン会0人事件』は、もう自分ひとりでは抱えきれなくなり、なりふり構わずしたツイートがきっかけとなって、多くの人に知られることになった。

「そもそも、このフロア自体に人がいなかったんで、嫌な予感はしてたんですよ、なんか中途半端でよくわかんない所で座らされて(笑)。こんなんだったら外でやらせてくれ、自分から声掛けに行くからって(笑)。ただ、そのときに底まで落ちきった感触があったんです」

写真とともにあげられたこのツイートは、リツイート3393件、いいね1万件というバズりを見せた。このツイートを芸人はもちろん、一般の人も面白がり、仕事が何件が舞い込んだ。

「今となっては、この0人の状況を受け入れろってことだったのかもしれないな、って思いますね。どんなに嫌な状況でも、目をそらさず、現状を認識することが土壇場を回避する術だったのかもしれません」

そして今度、同じ町田モディで2022年5月28日(土)にリベンジサイン会を行う。

「本当は、同じ売り場で同じ配置でやりたかったんですけど、そこは今はもう同じ感じじゃないらしくて。今度は1人でも多くの人に来てほしいですね。リベンジって銘打ってるのに、誰も来なかったら悲しすぎます(笑)」

一世を風靡した芸人が、ブームが終わり、仕方なくバイトを始めたというのは、お笑い好きだとよく聞くエピソードトークだ。高木にそういった土壇場はなかったのだろうか。

「そうですね……でも、もともとお金的なことがあんまりピンとこない性格なんですよね。お金はなくても大丈夫なんです。相方とかは、目に見えて減っていく給料に焦ってたし。そもそも当時、結婚して子どもがいたのは僕の方だったので、“大丈夫?”ってずっと聞いてくれてましたね」

これまで、解散の話をしたことは一度もなかったジョイマンだったが、池谷から“解散して芸人を辞めて、普通の仕事に就いたほうが良いのでは?”と相談を持ちかけてきたのはこの頃だ。

「2014年くらいですかね? 当時、相方はまたバイトを始めてました。でも僕は、奥さんも働いてくれてて、あとは貯金を切り崩して、なんとかバイトはせずに済みました。もちろん、どうしようもなくなったらバイトをしていたと思います。でも、もともとこの仕事を選んだ時点で、お笑いで食えるとは思ってなかったんですよ。それが運良く食えるようになって、それがまた最初に戻ったってだけの話なんです。もっとガツガツしていたほうがいいって自分でも思うんですけど、お金に関してはずっと同じスタンスですね」

 

ムーディー勝山の姿勢にも驚かされたが、高木の考えを変えた芸人がもう1人いるという。

「もう中学生さんですね。あるとき、営業で一緒になったんですけど、楽屋にいたらもう中さんが“高木くん、藤本さん(FIJIWARA)が暇な顔してるから、2人で漫才見せてあげようよ”って言ってきて。いきなりですよ? で、ほとんどアドリブで藤本さんに漫才を披露して、全然うまくいかないけど、そこは藤本さんがうまくツッコんでくれて終わったんです。そのときに、もう中さんは人を喜ばせることに分け隔てがないんだ、って気づいて。僕ら芸人ってステージでオンにして、ステージを降りたらオフでしゃべらない、みたいなのがカッコいいとされがちだけど、本当は違うよな、純粋に目の前の人を楽しませたいって思わなきゃダメだよな、と思いました」

この本には、2010年から2020年のジョイマン高木晋哉のリアルが詰まっている。2011年に東日本大震災があって、そのときのツイートもそのまま記載されている。そして、その年に高木家は子どもを授かっている。

「最初のうちは自虐的なツイートも、“大丈夫ですか?”とか“本当にかわいそうですね”って受け止められ方をされてて、それだけ哀愁を誘ってるのかな、と少しだけうれしかったんですけど、やっぱり本音はクスッとでも笑ってほしかった。最近は純粋に楽しんでくれる方が増えてきたので、何事も続けてみるもんだな、と思ってます」

『ここにいるよ ジョイマン・高木のツイート日記』にはツイートのほかに、Twitter発のジョイマンラップ集が収録されている。その数なんと1000! 最近では新世紀エヴァンゲリオンのテレビ放送に合わせて、「エヴァ 湯葉」「碇ゲンドウ 非道」「第一種戦闘配置 ライチ」など、実況ラップを披露している。これまで数多のラップを披露しているが、本人の中で会心の出来のラップはどれなのだろうか。

「この本を出すにあたって、好きなラップを選んでくださいって言われたんですけど、読んでたら自分でも何がなんだかわからなくなっちゃって……(笑)。だから、とりあえずTwitterに載せたラップは全部載ってるはずなんですけど、個人的にネクストステージに行ってるなって思うのは、1文字シリーズですね。「わー、輪」とか好きです。さすがにこれは手を抜きすぎだろって言われましたけど(笑)」

最後に、ニュースクランチでラップをお願いすると、会議室にも関わらず、ジェスチャー付きで披露してくれた。

「ニュース~クランチ~♪ 僕の実家、団地♪ セイ!」

▲ジョイマンのリベンジサイン会は2022年5月28日(土)に町田モディで開催される

<ジョイマンのリベンジサイン会>
 
 
2014年8月3日、町田・モディで起きたサイン会0人事件。衝撃の現実を伝えた高木のツイートは、当時多くの人に拡散され今でも語り草に。あれから8年後の2022年、徐々に人気の回復を見せてきた(⁉)ジョイマンたっての希望で、もう一度同じ場所でサイン会を行うことが決定!

前回は0人、今回は「ななななー」77人が目標! 果たしてお客さんは来てくれるのか……?

【サイン会概要】
日時:2022年5月28日(土) 15:30~
場所:町田モディ4階イベントスペース(〒194-0013東京都町田市原町田6-2-6)
11:00 町田モディ1階店頭にて整理券配布(参加者が最大100人に達し次第終了)
15:30 サイン会スタート
17:00 終了予定

【物販コーナー】
会場では高木晋哉:著『ここにいるよ』のサイン本と、ジョイマンのリリックTシャツを販売。どなたでもお買い求めいただけます。特典として、お買い上げの方にバッジを1点プレゼント! さらにサイン会参加予定の方は、購入時に整理券のご提示でジョイマンとの「写真撮影券」をお渡しします! サイン会の際にスタッフに整理券と撮影券をお渡しください。販売時間14:00~17:00終了予定。(商品、ノベルティともに数に限りがございます)
プロフィール
 
高木 晋哉(たかぎ・しんや)〈ジョイマン〉
1980年8月18日生まれ。神奈川県出身。A型。ボケ担当。相方であるツッコミ担当の池谷とは中学校の同級生。2003年にお笑いコンビ「ジョイマン」を結成。2008年に『爆笑レッドカーペット』を始め多くのテレビ番組に出演し、一気に大ブレイク。しかし、2年後にはブレイクし終わり、2010年の『タカトシ×くりぃむのペケ×ポン』のコーナーでは「旬じゃない芸人ルーム」にいた。同年にTwitterを始めたが、エゴサーチをした際、膨大な数のアカウントが「ジョイマン消えた?」とツイートしているのを発見し、いても立ってもいられず「ここにいるよ」とリツイートで答え始める。さらに「ジョイマン死んだ?」というツイートには「生きているよ。そして、生きていくよ。」とリツイートを開始。以来、途切れることなく安否確認のリツイートをし続けている。 近年、ジョイマンを見失ってしまった人々は以前よりも減少し、それに呼応するように仕事量は徐々に回復。一発屋オールスターズとしてのユニット活動や、ポエム集『ななな』の発表、YouTube等でネタのダンスとエクササイズを融合させた“ジョイサササイズ”のトレーナーとしても活動するなど、活躍の幅を広げている。Twitter:@joymanjoyman、ブログ:おこがましいけど愛させて