2019年まで中日ドラゴンズ二軍監督を務め、20年から北海道日本ハムファイターズの一軍ヘッド兼打撃コーチに就任した小笠原道大氏。中日ドラゴンズで二軍監督を務めていた2019年の春季キャンプから真夏の公式戦シーズンまで、日々感じたこと、考えていたことを通して、二軍監督という仕事の中でも「育成」というテーマを中心に語ってもらった。
※本記事は、小笠原道大:著『二軍監督奮闘記』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。
「育成」という仕事はチームの強化に直結する
育成・教育というのは、誰にとっても大変重要なテーマです。多くの企業や団体、それに家庭で、「育てる」ことについて悩んでいる人が多いと聞きます。
私の話が皆さんの悩みを解決できるかどうかはわかりません。でも、少なくとも私自身が、皆さんと同じように「育成」というものに真剣に向き合い、悩みを抱える者のひとりであるのは事実です。もしかしたら、共感してもらえることがあるかもしれません。
二軍とは、一軍という「メインユニット」をサポートする、「後方支援部隊」です。
一軍のニーズに応えられるよう、さまざまな可能性に備えなくてはならず、やらなければならない仕事は多岐にわたります。その中でも今回「育成」という部分に焦点を当てるのは、それがかけがえのない、尊い任務であると信じているからです。
球団には多種多様の仕事がありますが、その多くはチームを強くすることを目的としています。とくに私たちが主に担当している「育成」という仕事は、チームの強化に直結するものですし、球団に関係するすべての人を元気づけるものでもあります。中でも編成部門、スカウトの方の苦労に報いたいという気持ちが強くあります。
「育てられませんでした……」では済まない
スカウトの方が足を棒にして日焼けしながら、何年も通って頭を下げて獲得してくれた選手たち。彼らを一軍の晴れ舞台でプレーできるように育てたい──その思いが強いのです。預かった選手たちを5年、10年、20 年と活躍できるようにすることが、二軍コーチングスタッフの大切なミッションです。
「預かりました、でも育てられませんでした……」では済まないと思っています。
さらに言えば、それは中日ドラゴンズという一球団内のことにとどまりません。ひとりの野球選手がプロ球団に入って来る背景には、たくさんの人たちの努力とサポート、そして期待があります。
家族・親類はもちろん、指導者の皆さん、チームメイト、少年・中学校・高校・大学・社会人の野球関係の皆さん、行政などグラウンドを管理する方々、用具のメーカーやショップ、マスメディア、応援してくれる皆さん……プロ野球選手がひとり誕生するためには、たくさんの方の愛情が結集しているのを私は知っています。
そのすべてが日本の野球を支えて、盛り上げてくれているのです。
大げさに聞こえるかもしれませんが、一軍で活躍できる選手を育成するということは、日本の野球界に励みを与え、すべてを幸せな方向に発展させることだと思っています。