つらい状況を耐えたその先に本当のチャンスがやってくる。ガラガラの会場、ブーイングの嵐、会社の身売り……。存亡の危機にあった新日本プロレスを支え続け、プロレスファンからの罵倒を乗り越え、不動のエースになった「100年に一人の逸材」は、逆境の中でもがきながらも、言葉を力にして立ち上がった。棚橋弘至が、その“力強さ”と“怖さ”を語る。

 

レスラーは言葉が命

「新日本プロレスをもっと広めていこう」とプロモーションに精を出すようになってから、取材や試合後のコメントでの“言葉選び”がいかに大切であるか──、あらためて気が付いた。

たとえば、タイトルマッチの記者会見だ。

「がんばります!」や「勝ちたいと思います!」といった単調な言葉だけでは絶対に響かない人たちがいる。こちらに興味を持ってもらい、さらに巻き込むためには時事ネタを取り入れたり、僕の好きな『仮面ライダー』などのヒーローものからキャッチコピーを拝借したりと、何かしら目に留まり心に引っ掛かるキーワードを発信する必要がある。

さらに、プロレスを熱心に観てくれているファンには「なぜ闘うのか?」という試合の意義や背景を詳しく伝え、期待感を高めたい。だから、僕はいつもこの二つを一発で解決できる最大公約数的な言葉を脳内で探している。

そもそも、レスラーにとって言葉は大きな重要性を持つ。それは観る側には、それぞれがどんな選手なのか判断する材料として、試合以外にコメントくらいしかないからだ。レスラー像は言葉の積み重ねで作られるため、自ずと一言に込める熱量は大きくなる。

だからと言って、コメントはただ長ければいいということではない。その時々で「観客の胸にスッと入る言葉は何か?」を瞬時に判断し、表現する“瞬発力”が必要になる。

その瞬発力は、「言葉」を蓄積していないと出てこないから、日常生活でのインプットが不可欠だ。

と、偉そうに書いているものの、こればかりは場数をこなすしかないというのが持論だ。

「あのときこう言えばよかった」と反省を繰り返し、磨かれていくものだと思う。