今、「新聞記者」の信頼感が揺らいでいる。ひとつのきっかけは菅義偉官房長官会見で名を馳せた東京新聞の望月衣塑子記者の存在だ。今回、毎日新聞社が望月記者のツイートを「事実に反する」として削除を申し入れた件について、ジャーナリストの安積明子氏が独自の視点で切り込む。

望月記者が「優遇措置」を求める根拠はどこにあるのか?

あまりにひどい嘘っぱちに、いよいよ内閣記者会が立ち上がったのだろう。毎日新聞の秋山信一記者が2月6日、「『望月記者は指させない』…事実に反するツイート拡散 菅長官会見巡る異常事態」という記事を同紙のウェブで掲載した。東京新聞の望月衣塑子記者の1月29日にTwitterに書き込んだ以下の内容について、「事実に反する」として削除を申し入れたものだ。

騒動の始まりは同月22日午前の会見で、指名されなかった望月記者が異議を唱えたことだった。第201回通常国会が始まったばかりのこの日は、午後1時から衆議院本会議で代表質問が行われることになっていた。よってこの日の午後会見以降は副長官会見にとって替わり、24日午後の会見は筆者は参加できなかった。官邸にとってもっとも多忙な週の真っ最中ともいえるのだ。

その中で、米国上院でのトランプ大統領の弾劾審議入りやコロナウイルスの「ヒトからヒトへの伝染」の可能性、外国人による土地取得制限についての法整備など、記者の質問が相次いだ。とりわけ「桜を見る会」については、朝日新聞の他、北海道新聞、毎日新聞が質問。総裁選での党員票や支持拡大に利用したか否か、資料の存在を知っていた内閣府に対する対応についてなど、厳しい質問が飛び交った。

そして“最後の質問”が終わったところに、東京新聞の望月衣塑子記者が手を挙げた。

望月記者「はい、長官。お願いします。昨日からずっと手を挙げているんですけれど、私はつつかれないんですねえ」

幹事社(朝日新聞)「あの1問、宜しいでしょうか」

菅長官「どうぞ」

報道室長「次の質問、最後でお願いします」

望月記者「すみません。2問聞きたいんですけれども。2問だけ」

幹事社(朝日新聞)「あっ、昨日も手を挙げておられたんで、2問……」

菅長官「私の指名したのは最後の1問ということですので。これはあの、記者会のみなさんと政府のお互いの話し合いの中で行われておりますので、そこはできるだけルールに従ってお願いしたいと思います。私にも今日もいろんな公務等の中でですね、こうして丁寧に説明させていただいているところでございます」

望月記者「ひたすら指されないことが続いております。しかも必ず私が最後でございます。見てる限りは私がいた時は他の記者さんは、最低でも1回は指されているんですね。非常に不当な扱いを長官の指名によって受けていると感じます。ぜひ見直していただきたい。なのでここで2問、昨日も含めて聞けない質問が続いております……」

菅長官「ここはあの、あなたのご要望についてお答えする場所ではありません。ここは記者会と内閣の間の合意の中で行われている記者会見でありますので、ご要望を申し上げる場所ではないことを明快に申し上げておきたいと思います」

望月記者「恣意的な、恣意的な最後にまわすことには、抗議をさせていただきたいと思います。桜の招待名簿の管理に関して。昨日もですね、廃棄をしたと主張されていた文書が新たに出てきました。おそらくこれからも、またいろんなことが出てくると思います。この招待者名簿の管理にわたっては、歴代課長が処分されたことに関して、長官は昨日、責任を問われた際、『しっかり対応することが大事であり、現場の責任者の方にそのように対応させていただいた』とお話をされ、ご自身の責任に関しては明言を避けております。責任をもし痛感されているということであれば、やはりですね。ご自身の処分もあわせた対応が必要なのではないですか。自身の身を処してでも、この公文書管理を本気で徹底していくという、こういうおつもりはないんでしょうか」

菅長官「昨日も申し上げましたけれども、法律に抵触するものでありますから、そこについては処分をさせていただきました。いずれにしろ、公文書管理ということはしっかり行われることは当然のことであります」

思い切り強気で押し切った割には、望月記者の質問は拍子抜けの印象が残る。そもそもこれは質問なのか、それとも菅長官に対する糾弾なのか。もし後者なら会見場ではなく、官邸と道路を挟んだ記者会館側の歩道上で行うべきだ。

なお、望月記者は官房長官会見での「質問権」を振りかざすが、記者会見が内閣記者会主催のものであるのなら、内閣記者会の記者が優先権を得ても仕方がない。実際にニコニコ動画の七尾功氏やフリーランスの筆者は先に指名されることはない。我々と同じく内閣記者会のメンバーではない望月記者が「優遇措置」を求める根拠はどこにあるのか。あるいは我々より優遇されるべきと思い込む根拠は何か。そしてその勘違いはその後、「指名されなかった原因は番記者たちの談合だ」という妄想にたどり着く。