サラリーマンのストレスのはけ口に・・・

芸人としての“育ちの良し悪し”があるとしたら、俺はかなり悪いほうだと思う。大手事務所で育った芸人は大会でスカウトされたり、ライブで実績を残していたり、誰もが一目を置く才能を持っていることがほとんどだ。

彼らは事務所の主催ライブで腕を磨き、地方営業、学園祭などの仕事も定期的にまわってくる。そしてテレビに出て、あっという間に売れてゆく。まさに王道中の王道だろう。

一方、俺はショーパブから芸の道に入り、弱小事務所から芸人人生をスタート。大手事務所が断るような場末の飲み屋、屋形船の宴会、常連によるソープランド貸し切りパーティー、Hなコンパニオンがいる宴会、謎の柄の悪い企業のパーティーなど、営業の依頼があったらどんな現場にも足を運んだ。

もちろん、主戦場だったショーパブにだってタチの悪い客はいる。ネタの最中に「つまんねーぞ!」「似てねー」「いつ笑わせてくれんのー?」とヤジを飛ばされるなんて日常茶飯事。今となってはとても恥ずかしい話だが、「じゃあテメーがやってみろ!」と客席に向けて怒鳴ったこともある。

営業に慣れてくるとわかることだが、こわもてで“そっち系”の仕事だろうなという人は、逆にマナーは良かったりするから不思議なものだ。普段ストレスを抱えてるようなサラリーマンのほうが厄介だった。

客席に降りてパフォーマンスをする俺の手を、強い力で引っ張ったり、握手した手にキスしてくるおっさんもいた。

「お前は売れないよ~」「68点!」と勝手に点数つけてくる客もいた。完全に無視されることもザラだった。

ショーが終わったら気を取り直して客席を回る。記念撮影などファンサービスの一環で、おひねりをもらえることもある。さっきまでヤジを飛ばしていた客の元にも行くわけだが、こういうタイプの客はちょっとビビって大人しくなってるか、もしくはショーの途中で酔っ払って寝ているかの2パターンだ。

「つまんねーぞバカ!」と言われながら、おしぼりを投げつけられたこともあったな。おしぼりが顔にあたってキレそうになったが、他のお客さんが引いてしまうのでグッと堪えてネタを続けた。あのときの悔しさは今でも忘れられない。