R-1でヒロシの大爆笑を尻目に
ある日、後輩のダブルネームのジョーが、ピン芸人の大会が始まることを教えてくれた。面白ければなんでもOK。漫談、コント、モノマネ……面白ければなんでもアリという、おおらかなルールが魅力だった。
「TAIGAさんも出ませんか?」と誘われたら断る理由もない。「面白そうだから出てみるか!」。
それが『R-1ぐらんぷり(現在の『R-1グランプリ)』だった。当時のR-1は1回戦、2回戦、準決勝、決勝というシステムで、3回勝ち上がれば決勝に行けた。つまり、テレビに出れるということだ。
その明快さは魅力的で、予選会場には多くの芸人と思われる人たちが受付に並んでいた。お笑いファンのお客さんたちもたくさん集まっていた。当時のお笑いファンは、今と比べて高校生くらいの若い女の子が多かったように思う。
まずは大会の雰囲気を知るため、俺より出番が前だったダブルネームジョーのネタを会場で見ることにする。ショーパブでは安定した笑いを取っていたダブルネームだから、R-1でもそこそこやってくれるだろうと、内心期待していた。
ジョーが、キサラでは鉄板だったケミストリーの格好で出てくると、まず小さな笑いがおきた。「いいぞ!」と心の中で応援したが、そのあとのネタはツルッツルにスベリ、1つの笑いもなく終わった。惨敗だ。とてつもない空気の中で最後までやりきったジョーは立派だったが、顔は青ざめていた。
「途中でネタを終わらせてハケようかと思いましたよ」
ジョーも苦笑いで通路で話していると、会場から「キャーーー!!!」という歓声が聞こえてきた。
黄色い歓声を一身に浴びていたいは、その当時ブレイクし始めていたヒロシさんだった。何を言っても会場からドッカンドッカン笑いが起きている。確かに「ヒロシです」から始まるネタの何もかもが面白かった。
ジョーがスベッたのは客席が重かったのではない。単純にネタが面白くなかったのだ。途端に不安になってきた。