TAIGA売れてないのにギャラが10万円！
芸人の大切な仕事の一つに「営業」がある。どんな芸人でも、営業を月に数本こなせば、食っていくことができる。だから、若い頃は喉から手が出るほど、営業の仕事が欲しかった。
そもそも営業とは何か。一般の人からしたら、モノやサービスを売り込みに行く営業マンを想像するかもしれないが、芸人の営業とは、イベントに呼んでもらうことを指す。お祭り、学園祭、企業の貸し切りパーティー、ショッピングセンターの催事、飲み屋の周年イベントなどなど。これらに出演して盛り上げるのが芸人の営業だ。
一概には言えないが、売れてない芸人でも営業のギャラは一回10万ほど。新人だと3〜5万くらいだろうか。そこから事務所や業者が半分くらい持っていくが、新人でも最大2万5000円がもらえる。10万だったら5万もらえる計算だ。
営業の持ち時間は、だいたい10分〜30分だから、稼働時間でギャラを割ったらすごい時給になる。考えてほしい。普通の仕事で30分で5万稼げる仕事なんてあるだろうか。売れてる人だと一本20万もらえるし、聞くところによると、一本200万〜数千万なんて大物もいるらしい。
ギャランティーでいうと、営業はテレビに出るよりも全然稼げる。だからテレビにたくさん出て顔を売って、営業でしこたま稼ぐというのが、今も続く芸人の成功パターンだ。俺たちは営業に呼ばれたら、基本的にどこでも飛んでいく。
その日の営業は関西だった。ホテルのパーティールームを貸し切った、とある企業のパーティーに呼ばれた。そこでは俺を含め３人の芸人が呼ばれて、ステージに立つことになっていた。
トップバッターは俺だった。いつも通りオープニング曲にのせて、ステージ裏からナレーションで拍手などを煽る。
「それでは、まずはエルヴィス・プレスリーオンステージ！」とコールして、勢いよく飛び出した。
いつも通り高めのテンションでネタを始めようとしたのだが、どうにも空気が重い。その理由はすぐにわかった。客席には、少々ガラの悪そうな人たちがニコリともせずズラリと俺をみている。これは難しそうな現場だとすぐに気づき、喋り真似などのネタに切り替える……がウケない。静まりかえった空気のなか、MCなどで巻き返そうとするが、そのMCもウケない。八方塞がりである。
すると、前のほうに座っていた特にガラの悪そうな男が「おいこら、笑えへんぞ！」とヤジってきた。今だったら「面白かったら売れてますよ！」など返しができるが、そのときは対処する余裕もまだなかったので、聞こえないフリでスルーしようとした。
その男は、かなり酔っ払っているようだった。すると、その隣にいた男も「全然似てへんやん」と絡んできた。 スルーしようにも、会場内に聞こえるくらいの大きな声で「シーン」「つまらんなー」「早く笑わせろや」とヤジがヒートアップしてきた。
