濡れた1000円札をドライヤーで乾かし・・・

しまった。こんなことを書いてたら、どんどん嫌な記憶が蘇ってきた。地方のキャバクラ営業では、酔っ払った客がショータイム中にテキーラを持ってきて、何度も一気させられたこともある。

断ると場はシラケるし、呼んでくれたお店の人の手前あるので、断ることはしない。ヘラヘラ笑ってテキーラをあおる俺の様子は、エリート芸人からしたら、まさに汚れ芸人の立ち振る舞いだが、一気すればチップが貰えた。だから俺は断ることはできない。

もう飲めないと言うと「飲めないなら頭からかぶれ!」と、グラス満タンの焼酎を頭からかけられたこともある。屈辱的だったし、腹も立ったが、酒をかけられた迷惑料として、いつもより多めにチップをもらった。思い出しただけで涙が出てくる。

だが、どれだけ屈辱的な仕打ちを受けた相手から貰ったとしても、チップはチップだ。手にしたお札を見ると、少しだけ救われた気がした。

酒で濡れてるものもあれば、綺麗に結んであるもの、割り箸に挟んでポケットに入れられてるもの、ステージを終えた俺の手元にはいろんなチップがある。

楽屋に帰ってから一枚一枚数えて、金額を確認して財布にしまう。濡れてるお札はドライヤーで乾かす。たくさんチップもらった先輩が、若手に2000円ずつ分けてくれることもあった。

若い頃はチップ貯金をしていた。泡銭みたいなものだからと、家の引き出しに放り込んでいて。最高で40万くらい貯まっただろうか。結局30代半ばくらいで金に困って使い果たしてしまったのだが。 売れてない若手芸人は、とにかく金がない。手っ取り早く金を貰うことを優先するのは当たり前だ。

屈辱的な仕打ちの代わりにギャラをもらえる飲み会は他にもあった。

いわゆる「タニマチ」と言われるパトロン的なお金持ちの集まる飲み会や、パーティーでネタをやって、散々バカにされて貰う帰りのタクシー代だ。

俺をとてもよくかわいがってくれた木戸さん(過去話参照)のような、愛を持って本当に応援してくれてる人のタクシー代とは意味合いが違う。