「CIA(アメリカ)」「SVR(ロシア)」「MI6(イギリス)」「モサド(イスラエル)」から「陸軍中野学校」まで――。この世で最も頭の回転が速くなければ務まらない職業、それが「諜報員」です。諜報員は、すべてが死と直結する緊迫した状況の中で即座にミッションを成功させなければなりません。失敗が許されない彼らは、思考のフレームワークを身につけており、その「型」はそのままビジネスに応用できます。元防衛省情報分析官・上田篤盛氏が、諜報員が使う極秘技術の中から、「記憶術」に関するものをご紹介します。
※本記事は、上田篤盛:著『超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル -仕事で使える5つの極秘技術-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
諜報員が持つ強力な武器は5つ
「会話や物事の理解度が高い」「仕事を効率的に行なう」「情報をまとめたり、整理できる」「人の心が読める、人を操れる」「記憶力が高い」「物事の先を読める」「決断力がある」
多くのビジネスパーソンがあこがれる“頭の回転が速い人”とは、このような能力や資質の持ち主を指すようだ。むろん、これだけの能力が備わっていれば、仕事やビジネスで成果を出すことはたやすい。
じつは、冒頭に並べた能力・資質を、ほぼすべて兼ね備えている仕事人がいる。それが、諜報員だ。諜報員とは、アメリカのCIA、イギリスのMI6、ロシアのSVR、イスラエルのモサドといった諜報機関で、敵対勢力に対し「戦わずして勝つ」を信条に、水面下での情報戦に従事している者の総称である。
彼らは、情報を収集し、分析してインテリジェンスを作成したり、時に秘密工作に従事し、また国家の重要な秘密情報を守るミッションを遂行する。諜報員がミッションに失敗すれば、国や国民は危機に瀕する。個々の諜報員には死刑・投獄が待っている。まさしく、重要かつ命がけの職業だ。
諜報員は、高い倍率を突破し、長期間の基礎教育と実地教育でふるいにかけられ、勝ち残った優秀な人材ばかりのエリート集団である。すなわち諜報員こそは、この世で最も「頭の回転が速くなければ務まらない職業人」なのである。
諜報員が持つ強力な武器は5つある。
- 「情報収集術」=どこから誰から情報を仕入れるか、どうやって情報の真偽を確かめるか。
- 「人心掌握術」=協力者を見つけ、思い通りに動かすテクニックだ。
- 「記憶術」=キーワードや人の話の内容を覚える技術、記憶を瞬時に引き出す技術。
- 「情報分析術」=集めた情報から、有効な意思決定、行動をするためのインテリジェンスを作成する技術だ。
- 「実行力」=冷静に、迅速に、柔軟に考え、行動する技術だ。
これらの技術を持つから、諜報員はミッションを達成し、成果を出すことができる。
そして、決して失敗が許されない彼らは、上記の技術を「思考のフレームワーク化」し、即座に動くことができるよう訓練されている。
そのどれもが、そのまま仕事やビジネスに応用できるものばかりだが、今回は「記憶術」に関する技術を紹介する。情報過多の昨今、きっと役に立つはずだ。
西洋スパイと忍者の多くの共通点
人と話をするときも、自分ひとりで考えごとや戦略を練るときも、いちいち情報を得るために、インターネットにアクセスしていては時間がかかってしまうし、思考が止まってしまい非効率だ。
「思考と発言の瞬発力を高める」「危機の兆候やチャンスの到来に気づき、ちょっと先の未来を洞察する」。この2つは記憶がものをいう。
記憶術に関して、おもしろいと感じたことがあった。
陸軍中野学校では、甲賀流忍者の継承者である藤田西湖という人が、忍者の術を講義した。忍者は諜報員の先駆者だ。記憶術は、西洋のスパイだけのものではなく、忍者も使っていたのだ。
忍者は諜報員との共通性が多い。
両者ともに困難な状況を克服し、単独で情報を収集して状況判断する。捕虜になろうとも生き延びて、その情報を報告する。情報を集める忍者も、いつ敵に捕まるかわからないので、メモなどはご法度であり、記憶力が必須であった。
テレビなどで、忍者が屋根裏に忍び込むシーンを見たことがある人も多いと思うが、暗闇の中でメモは取れない。江戸の忍者は遠い地方に出かけて、帰って来てから報告するので、何日も記憶しておく必要があったので、忘れないようにするため独自の方法を考え出した。
忍者は、変換法や連想法に似た技を活用していたようである。
これはKGBが使っていた「関連付ける」という記憶技術である。覚えるものを何かに置き換えて記憶する方法であり、たとえば、数字は体の部分や食べ物に置き換える変換法で記憶した。
例:1=頭 2=額 3=目 4=鼻 5=口 6=喉 7=胸 8=腹 9=尻 10=足
体の上から順に下りていき、その場所から数字を連想した。「置き換える術」は、原理としては西洋の諜報員の記憶術と同じである。
また、忍者には「不忘の術」があるという。
これは、自分の体を刃物で傷つけることにより、絶対に忘れてはならないことを覚える。たしかに、体に痛みを感じながら記憶していくと忘れにくくなりそうだと思う。刃物で自分を傷つけることはないが、体の部分をたたいたり、つねってみたりしながら記憶していくのは効果がありそうだ。
体に刺激を与えながら覚えることで、記憶を強めることができるのだ。