最近でこそ日本の男性が家事をすることが当たり前になってきていますが、それでもまだまだ社会的に納得のいく状況ではないと考えられています。それに比べ、欧米の男性に対しては、日本人の多くが率先して家事をやるイメージをもっているのはなぜでしょうか。元国連職員で海外事情に明るい谷本真由美氏が考察しました。

※本記事は、谷本真由美:​著『世界のニュースを日本人は何も知らない3』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

日本とは比べものにならない欧米の格差

日本人は「欧米の男性はレディーファーストで、日本の男性に比べるとずいぶん家事をやる」というイメージを抱いています。

私が海外に住んで感じたのは、それは一部真実ですが、日本の人々はその背景をよく理解していないのではないか、ということです。

こういった議論でいつも省略されてしまうことに、欧米も日本とは比べものにならないほどの厳しい格差社会であることがあります。これを忘れてはいけません。先進国全体で比較すると、格差が比較的小さめな北欧やドイツでも、日本に比べると収入の分散の様子や富の集中は、やはり日本よりも格差が大きいのです。

近年では、資産の有無による貧富差が広がっていて日本以上ともいえます。これらの国は日本よりも労働の流動性が高く、欧州大陸でも日本に比べると、かつてよりも終身雇用や安定した職がぐんと減っており、就労環境はかなり不安定です。

加えて、2000年以降は、富が特定の業界や階層の人々に流れる傾向が高まっています。これは特に金融とITで顕著です。グローバリゼーションによって産業構造が変化し、ごく少数のアイデアを有した人々や、巧みにマネジメントをする人々に富が集中する仕組みになってきました。

なぜなら、こういった産業がたくさんの労働者を必要としないからです。つまり工場のラインなどの設備がない業界だと、ごく一部の優秀な人に高い報酬を払って儲けてもらえばよい。そのため、30年前であれば正社員として働いていた人が非正規雇用となり、給料がどんどん減っていったり仕事がなくなったりしているのです。

▲欧米でも格差により就労環境の不安定さが加速している イメージ:PIXTA

私が子どもだった頃は、スマートフォンがないので、目覚まし時計・テレビ・プリンター・ワープロ・ゲーム機・ストップウォッチなど、さまざまなものが生産され、多くの人が産業に関わっていました。それが今ではスマートフォンに集約されてしまっている。その結果、仕事が減ってしまったのです。

とはいえ、スマートフォン機能の企画を考えるような人や、ソフトウェア開発者は需要が高く、彼らは莫大な量の仕事をこなすので高収入なのです。欧米も事務系の給料は日本よりはるかに安く、男性でもかつてのようには稼げないのです。