魔裟斗、ブアカーオ。名選手との死闘

パヤクレックとの戦いは、武田にとっての大きなクランチであったことは間違いない。他にも印象に残る選手はたくさんいるという。

「ブアカーオも、やっぱすごかったですね。さっきも言ったように、僕はリング上でもわりと冷静なので、相手とずっと向き合ってると、どこを攻めたら崩れるとか、勝利への糸口が見えてくるんです。でもブアカーオは、どこを攻めていいか最後までわからなかった。あと、蹴られたと思ったらもう脚が戻ってる、それくらい早い。試合が終わったら、ガードしていたほうの腕が、相手のキックの威力でブラーンとしてました(笑)」

魔裟斗との日本人対決も見応えがあった。後年、武田のキックの威力について「現役時代で、いちばん痛いローキックを打ってきたのが武田選手」と答えていたのを見て、とてもうれしかったことを思い出した。

「そうそう、この前、彼のYouTubeチャンネルに出たんですよ。やはり同じ時代を近いところで戦った人間同士、すごく盛り上がりましたね。またいいヤツなんですよ、魔娑斗くんは。現役時代は、挑発してきたとき“なんだ、このクソガキ”って思ってたけど(笑)」

▲多くの土壇場を経験してきたからこその熱いメッセージが突き刺さる

現役時代、リング上で火花を散らした者同士が、時を経て当時の裏話や心境を笑顔で明かしてくれる。このYouTubeは、この記事を読んでいる皆さんにはぜひ見てほしい。

「お前が決めたのか?」長渕剛の言葉

武田は2009年に現役を引退。その引退試合で、大ファンで以前から親交があった長渕剛に、入場曲として『STAY DREAM』を使わせてほしい、と伝えた。すると、長渕は快諾するどころか、この引退試合のためにレコーディングし直した『STAY DREAM』を提供してくれたという。

「長渕さんに“『STAY DREAM』を使いたいんですが……”ってお願いしたら、即答で“うん、いいよ。新たに(レコーディング)するよ”って言ってくださって。引退を決めた僕の気持ちを、みなまで言わなくてもわかってくださって、新たにレコーディングする、ということで餞(はなむけ)にしてくださる。カッコいいですよね」

引退試合の終了後、観戦に来ていた長渕剛と抱き合うシーンは非常に感動的だった。

「僕が長渕さんに相談するとき、何かを報告するとき、絶対に言われるのは“自分で決めたのか?”って言葉。“自分で決めたんだな? じゃあやれ”とか“自分で選んだのか? それが正解だよ”っておっしゃってくれます。逆にどんなに正しいことでも、自分で決めず、責任が取れないことならやるべきじゃない、ってことなんだなって。他人の意見で決めてしまうと、どうしても失敗したときに他人のせいにしてしまうので」