俺は日本に行って立派なヤクザになる

そして、その日以来、俺は仕事がない日でもたびたびミスター・スズキの家を訪れ、ヤスオや奥さんそっちのけで、ヤクザ映画について二人で語り合った。

と言っても、ほとんどはミスター・スズキがしゃべっていたのだが、彼の話はとても面白くタメになった。

義理と人情、任侠、テキヤと博徒の違いといったことから、主役と脇役から見たヤクザ映画の味わい方なんてのも彼が教えてくれた。

たとえば主役で言えば、俺が敬愛してやまないヒーロー、健さんこと高倉健、鶴田浩二、菅原文太、渡哲也、小林旭、松方弘樹……。

そして主役を引き立てるためになくてはならない名脇役たち。池部良、安藤昇、嵐寛壽郎(かんじゅうろう)、里見浩太朗、長門裕之、そしてアメリカでも人気のサニー千葉こと千葉真一……。

こうやって思い出すだけでもゾクゾクしてくるような俳優たちの特徴や役どころを、ミスター・スズキはほうっておいたら一晩じゅうでも語り続けた。

池部良が、大学出のインテリで作家としても優れており、ヤクザの存在そのものには反対の立場をとっていたので、最後は必ず死ぬ設定にしないと仕事を請けなかった話だとか、安藤昇がホンマもんのヤクザ、しかも組長だったといった話も全部、ミスター・スズキから教わった。

ミスター・スズキが俺に与えてくれたのはヤクザ映画の知識だけじゃなかった。俺が自分のパソコンを手に入れるため、このバイトをしているのだと知ると、俺のコンピュータスキルを活かせる仕事を紹介してくれた。最初はデータ入力などの簡単な仕事だったが、徐々に俺の能力の高さがクライアントの知るところとなった。

最後のほうは、いっぱしのシステムエンジニア並みの仕事まで任せられるようになり、時給に換算すれば一般的な高校生の5倍から6倍は稼いでいた。

おかげさまで、俺は当時としては相当ハイスペックなパソコンを手に入れ、腕に磨きをかけることができたし、ミスター・スズキに頼らなくても、日本から好きなだけヤクザ映画のDVDを取り寄せることができるようになっていた。

コンピュータ関係の仕事のほうが忙しくなり、ベビーシッターとしてミスター・スズキの家に行くことがなくなったあとも、彼との交流は続いた。

高校卒業まで残り半年を切った頃のことだった。ある日の夜、ミスター・スズキと二人で『網走番外地』を見たあと、ミスター・スズキがふと俺に聞いた。

「そういえば、前から不思議に思ってたことがあるんだけれど……」

「なんでしょう」

「最近じゃ、日本でさえ若者がヤクザ映画を見なくなってきてるっていうのに、アメリカ人の君がどうしてこんなにヤクザに惹かれるんだろう、ってね……君がヤクザをすごくクールだって感じるのはわかるよ。でもほかに、なにか理由があるんじゃないのかなって」

そう言われてみて、俺は自分がヤクザ映画にハマった理由を考えたことがなかったことにあらためて気づいた。

アメリカにだって、マフィアやギャングをテーマにした映画は死ぬほどある。なのにどうして、行ったこともない国のヤクザ映画をこんなにまで愛してしまったのか……。

しばらく黙り込んだまま、宙を睨んで答えを探す俺に、ミスター・スズキがなにか言いかけたとき、ふいに寝室のほうから息子のヤスオが走り出て来て、彼の首根っこに抱きついた。

「おやすみ、パパ」

「おやすみ、ヤスオ」

挨拶を返しながら息子の頭を愛おしそうに撫でてやるミスター・スズキの背中を眺めているうちに、俺はハタとあることに気づいた。

そうだ、俺が日本のヤクザ映画に求めていたものは、理想の父親像であり家族だったのだと。前にも言ったように、オフクロや俺たち家族を捨てて出ていったクソ野郎のおかげで、俺は父親だとか家族のあたたかみってものを知らずに育った。だからこそ、世界のサブロー・キタジマが歌っているように、血のつながった家族よりも、強く男らしい親分の下で、固い絆によって結ばれている日本のヤクザに憧れを抱いたんだ。

そのとき俺は、心に決めた。

日本に行って立派なヤクザになることを――。

10月11日(火)の単行本発売開始(紙・電子)を記念して、今日から1章から5章までを毎日連載! ※4章~5章は10月31日(火)までの期間限定公開となります。