大学生の悪ノリにプッツン寸前
某大学のサークルの新入生歓迎コンパの営業に行ったときは、最初から嫌な予感がしていた。新宿のクラブを貸し切って、おそらく学生が200人くらい参加していたと思う。その当時はスーパーフリーなど悪いサークルも多く、学生の飲み会は風紀が乱れていることで有名だった。
この日も、なかなかガラの悪そうなサークルのパーティーだった。控室にいるときから会場では激しいトランスがかかっていて、学生たちが酒を飲みながら奇声を発してるのが聞こえる。嫌な予感しかしない。なぜなら、こういう場ではショーが始まっても、騒いでネタを見てくれないからだ。
イベントを仕切っている業者さんに「そろそろ本番なので」と声をかけられ、いつも通りオープニング曲をかけて裏からMCが拍手をアオると、学生たちは「イェーイ!」と盛り上がってくれている。
「あれ? これは逆に盛り上がるのかも!?」
と思いながら出ていくと、やはり最初からすごい盛り上がり方だった。
だが、わずか数秒で気がつく。これは決していい盛り上がり方ではない。俺の芸を見て盛り上がっているわけではなく、ただ騒ぎたいだけ。ネタの途中でも「イェーイ!」「最高!」「頑張れー」の声がかかり、大事なオチの部分で「フォーー!」などと大声を出してネタを潰された。
仕方ない。
酒場の営業を繰り返してきた俺には、こんなときどうすればいいかよくわかっている。そう。落ち着いて淡々とネタをこなし、ひたすら時間が過ぎるのを待つしかない。
だが、平和を愛する俺の思いをよそに、段々エスカレートしていく学生たち。しまいにはステージに上がって、小道具のカツラを被り、変なダンスを始める者まで現れた。
さらに、身内だらけのサークルのパーティーゆえ、そっちのほうがウケちゃったりする。
俺がキレたり注意したら、場がシラケるのは間違いない。淡々とネタをやっていく俺。ようやく持ち時間の終わりが見えた頃になると、さらにエスカレートし、俺の横で酒を一気して「イェーイ!」とやる学生までいた。
ショーの最後は、SMAPの『世界に一つだけの花』だった。言わずと知れた名曲のイントロがかかると、学生たちはなぜか次々とステージに上がってきて、俺のことをかつぎ上げて胴上げしてきた。
「♪花屋の店先に並んだ~」と、胴上げされながら歌う俺。我慢できた。なんてったって、この曲が終われば仕事をまっとうしたことになるのだから。
すると、サビの部分になると、胴上げしていた学生たちが何を思ったか俺のズボンを脱がせようと、チャックやボタンを外しはじめた。俺は世界に一つだけの俺の花を守るため、きつく注意したら、今度は横から蹴りが飛んできた……。
「ふざけんなオラ!」