ついに我慢の限界に・・・
完全にキレた俺は、蹴ったヤツの胸ぐらを掴む。イキった学生は「なんだやんのか! コラ!」と、こちらの胸ぐらを掴んでくる。慌ててイベント業者や会場スタッフが止めにきて、俺は学生と揉みくちゃになりながら退場する。ショーは強制終了となったが、学生はそれさえも余興だと思って大騒ぎしていた。
控室ではイベントスタッフが俺に平謝りだったが、その人は何も悪くない。久しぶりに、カーッと頭に血が上った1日だった。
それからしばらく経ち、お世話になっていた木戸さん〔第15話「チップ・車代・メシ…芸能の甘い蜜を覚えた夜、新たに生まれた目標」参照〕の側近、大和さんと歌舞伎町で飲んでいたときのこと。キャバクラをハシゴして「もう一軒行こうか!」と2人で歌舞伎町を楽しく歩いていた。
すると、後ろから男が大和さんにぶつかってきた。
「邪魔だコラー」
3人組のガラの悪そうなヤツらが明らかに因縁つけてきた。ちなみに、大和さんは身長190cm近くある大男だ。見るからに強そうな大和さんに因縁つけるとは、相当腕っぷしに自信があるのだろう。俺はすかさず止めに入る。
「まぁまぁまぁ」
と営業スマイルを駆使して、ことを収めようと仲裁に入るが「オメーは関係ねーだろ!」と突き飛ばされる。俺もはグッと堪える。仕事場にも近い、新宿の繁華街で揉めたくはない。
「いや、この方、俺の知り合いなんです。こんなとこで揉めてもやっかいなんで、やめときましょうよ!」
大和さんも一歩も引く様子はない。これはやばい。相手は酔っ払ってるのか、大声をあげて俺たちに詰め寄ってくる。さらに実名のヤクザの名前を出して「うちら○○組に文句あんのか!」と脅してきた。
本当なのか嘘なのかもわからないが、組の名前まで出されたらこちらも怖い。俺はあいだに入って仲裁を続ける。すると、1人が俺に殴りかかってきた。とっさに顔をかばったが、次の瞬間、大和さんの拳が振り抜かれ、相手が吹っ飛ぶのが見える。
こうなったらもうやるしかない。相手はケンカ慣れしてないのか酔っ払ってるのか、大振りパンチをブンブン振り回すだけ。俺はまるで漫画のように簡単にパンチがよけれた。
すかさず武道で鍛えた蹴りを相手の腹にかます。ドシャーン! 5メートル近く吹っ飛んだだろうか。倒れてキャバクラの看板に頭をぶつけているのが目に入る。残りのヤツも大和さんと一緒にボコボコにやっつけたところで我に帰る。
周囲には大勢の人だかりができていたが、そっと現場をあとにする。俺たちがチンピラにからまれていたのを知ってか知らずか、何も言われることはなかった。
数週間後、コンビニで立ち読みしていた俺は目が点になった。
「歌舞伎町の惨劇」というタイトルで雑誌のグラビアページに写っていたのは、仁王立ちしている俺と大和さんの後ろ姿だった。どうやら、たまたま現場にいたカメラマンが、その様子を撮影していたらしい。
履歴書に雑誌に出たことを書けないのは残念だが、それ以降、街や仕事で大暴れすることもなくなった。
(構成:キンマサタカ)