2019年に公開された映画『ジョーカー』は現代社会の「弱者男性」が置かれた状況を象徴するような映画だったと、ロスジェネ世代についての著作を発表している批評家・杉田俊介氏は明かす。
ただ、映画『ジョーカー』の主人公アーサーの気の毒な境遇も、「男だから」という理由のみで「彼は本当の不幸ではない」との意見があるという。そこから日本における「男性特権」の根深さを感じているという杉田氏。では「男性特権」とまで言われるような日本の男女格差とは、一体どれほどのものなのだろうか?様々なデータから男女の置かれた状況の違いを紐解く。
※本記事は、杉田俊介:著『男がつらい! - 資本主義社会の「弱者男性」論 -』(ワニブックスPLUS新書:刊)より一部を抜粋編集したものです。
統計にみる日本の男女格差
統計データなども参照して、そもそも日本の男女格差はどの程度のものなのかを見てみよう。
そこから、日本の男性たちが置かれた状況を考えてみたい。
世界経済フォーラムによる「ジェンダーギャップ指数報告書」(2021年版)によると、日本は世界156か国中120位。内閣府男女共同参画局の広報誌『共同参画』2021年5月号にも書かれているように、これは「先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果」である。
また同報告書ではジェンダー格差指数を「経済」「政治」「教育」「健康」という四つの分野に分けて示しているが、ざっくり確認すると、日本は女性の政治参加(国会議員の男女比、閣僚の男女比など)が156か国中147位で非常に悪い。女性の公平な経済参加の機会もかなり低い値であり、順位は156か国中117位である。
教育分野は92位である。これも高いとは言えない。数値を見ると、日本の女性は初等教育の在学率、識字率は1位である。しかし高等教育の在学率は110位と、それに比べて(全体の平均値を上回っているものの)低い数値になる。ちなみに、先進国には「女性の方が大学進学率が低い」という国はほとんどなく、2年制の短大が多いことも日本に特有の問題のようだ。
総じて日本は、健康面や義務教育の男女平等という面では優れている。しかし女性の政治参加、雇用機会や労働環境の面では非常に大きなギャップがあり、また高等教育(大学など)についても差別がある。そうした評価になりそうだ。
たとえば「女性の社会進出が進んだ」と漠然と考えられているかもしれないが、言うまでもなく女性の就職先は非正規雇用が多く、依然として女性の非正規比率は男性の2倍以上である(男性の賃金は平均して女性の約1.5倍。管理職ポストの9割は男性。国会議員の9割前後が男性、など)。
また日本はシングルマザーの貧困率が異様なほど高いことも知られている。日本ほどシングルマザーが就労している国は少ないのに、適切な公的支援が不足しているために、働けば働くほど貧乏になっていく。そんないびつな仕組みがあるのだ。のみならずシングルマザーたちは、生活保護バッシングと関連したレッテルを貼られている。実際の生活保護受給者は、病気の高齢者や重度障害者などが主であるにもかかわらずだ。
つまり、日本の場合、女性の労働参加率は高いものの、非正規雇用の高さが示すように、性別役割分業という不平等が根深くある。
経済協力開発機構(OECD)の調査では、世界中で女性は男性の1.9倍の育児・家事などの無償労働を行っているが、日本ではこの格差が5.5倍にもなり、先進国の中では最大である。「経済・労働市場での男女格差と、家庭での男女格差は表裏一体なのだ」(山口慎太郎「家庭内の男女格差が大きい日本 男性を家庭に返そう」)。
2016年の総務省の調査によると、有配偶男女の一週全体の平均家事関連時間は男性が49分、女性は4時間55分で家事の95%を妻が行っている(「平成28年社会生活基本調査結果」総務省統計局)。
数値的には、男性も60代になると家事時間が増えていくが、これは退職によって家にいる時間が長くなる、あるいは妻が死去して自分でやるしかない、といったケースが増えるためだと思われる。
いずれにせよ、内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(2020年度版)によれば、日本の高齢男性の「家事を担っている」割合は26.6%であり、調査対象4か国(日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデン)の中で最下位である(他三か国の高齢男性の「家事を担っている」割合は7割以上)。