日々生きづらさを感じている繊細な人、ここでは「ナイーブさん」と呼びますが、そういう方が快適に暮らしていくためには、「思考のクセ」の見直しが必要不可欠だと清水栄司先生は説明します。

清水先生は認知行動療法のスペシャリストとして、不安症(パニック症、全般不安症 社交不安症)、強迫症とうつ病などの治療に、複数の認知行動療法士とともにあたっていますが、認知行動療法において、「認知の歪み」と呼ばれる「思考のクセ」の見直しがうつ・不安などの症状の改善に非常に重要だというのです。では思考のクセとは一体どういうことでしょうか?

※本記事は、清水 栄司:著『ナイーブさんを思考のクセから救う本』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「認知の歪み」が心を蝕む

繊細な人が生きづらさを感じることなく、快適に暮らしていくためのヒントが「思考のクセ」の見直しです。認知行動療法では「認知の歪み」と呼ばれ、その修正がうつ・不安などの症状の改善に非常に重要です

「認知」とは何を意味するのでしょう。辞書では「ある事柄をはっきりと認めること」です。科学の世界では目で見たり、耳で聞いたりといった五感を通した「知覚」も、広い意味では「認知」に含まれます。一方、認知行動療法で「認知」といった場合は、「物事の考え方、捉え方」という意味です。

それが歪んでしまうというのはどういうことでしょうか。

例えば、あなたは今、広い砂漠を旅しているとしましょう。持ってきたペットボトルの水は半分くらいあります。

これを見て、「もう半分しか残っていない」と否定的な解釈の認知をすると、不安、悲しみ、怒りなどのネガティブな感情が生まれてしまいます。

一方、「まだ半分も残っている」といった肯定的な認知からは、喜び、希望などのポジティブな感情が生じます。

実際には、両方のバランスをとって絶望と希望の中間で旅を乗り切るわけです。砂漠の旅と同じように、人生では多くのことが先行き不透明ですので、うまく認知のバランスをとって歩いていくことが必要です。

▲「認知の歪み」が心を蝕む イメージ:kuro / PIXTA

ここで問題になるのが、絶望に偏り過ぎる認知の歪みです。まだ水はそれなりにあるというのに、もうダメだと諦めてしまったらそこまでです。砂漠の中で歩みを止める行動につながり、死に至りかねません。

認知の歪みは、「思考のクセ」が強いこと。私たちの感情は、そういうクセの強い考え方から生まれることがあるのです

ですから、肯定的な認知をすればポジティブな感情が生まれますし、否定的な認知をすればネガティブな感情が生まれます。

認知の歪みは気づきにくい

人が不安や恐怖を感じるときは、必ずしも論理的に思考をめぐらせてたどり着くわけではありません。

"瞬間的"に不安や恐怖を脳が感じるのです。不安や恐怖のような強い感情は、認知(思考)とセットになっていることがあります。

▲認知のゆがみは気づきにくい イメージ:ナオ / PIXTA

認知行動療法の世界では自動的に頭に浮かぶ考えを「自動思考」といいますが、認知の歪みが強いと、自動思考でいたずらに強い不安を感じてしまうのです。

否定的な考え方をするクセが強いと、うつや不安などをもたらします

さらに認知の歪みがひどくなってくると、うつ病になって人や物事の価値が感じられなくなります。何もかもが無価値で、味気なく、世界全体が苦しみに満ちたものとして解釈されますから、人生をすることができません。

ですから、メンタル不調につながる認知の歪みには注意が必要なのです

認知の歪みは考え方のクセですから、まずは本人が認知の歪みの存在を正しく認識する必要があります。そして、無意識のうちに自動化された、極端に歪んだ思考のクセがすでにできてしまっているのなら、それを正しく直さなくてはなりません。

ところが大変やっかいなことに、当の本人はその状態に気づけないことが多いのです。