ウケたいという思いが空回りして2つの意味で大滑り
芸人をしていると、どうしてもT Vでウケたくて、危険な方向に行くことがある。
百戦錬磨のプロフェッショナルなリアクション芸人ならまだしも、無名なうえにT Vで結果出したいだけの芸人の脳内には、絶対良くない物質が出ているに違いない。
特に、私のような「痛くない」を公言してる人間なら尚更だ。
そういう精神状態のときは、だいたい怪我する。
とある番組でのこと。私は誰の指図も受けてないのに「僕は無痛人間なので、痛さも熱さも辛さも冷たさも全部問題ない」と言い切った。
これが面白いかどうかは一旦置いて、話を先に進めたい。
私はスタッフの制止を振り切って前に出た。そして熱いお湯をかぶった。冷たいものを食べ、臭いにおいを思い切り吸い込んだ。
「全然大丈夫ですよ! あとこれも」
と、足つぼマットに飛び乗った瞬間、グルンと視界が回った。
無秩序に前に出た私は盛大に足を滑らせ、頭から落ちたのだ。もちろん、お笑い的にもスベッているので2つの意味で大滑りしている。大事なことなので、もう一度言っておこう。間違いなく私の独断による愚行だ。
だが、その瞬間は意外と冷静で、「ヤバ、コケちゃった。ちょっと頭を打ったな。何か言わなきゃ」くらいの気持ちだった。
しかし、MCの方の緊迫した声が耳に入った。
「ダメダメダメ! 血がすごいよ!」
私の頭の右側から右腕にかけて、まるで水道の蛇口の「弱」くらいの勢いで血が滴り落ちていた。
次の瞬間、いろんな角度からタオルが飛んできた。スタッフの声がスタジオに響く。
「やばいって! やばいやばい!」
そのとき、やっと自分の愚かさに気づいた。そして頭が真っ白になった。
「やってしまった……」
ウケるどころか一切使えない映像になってしまった。それに気がつき、えげつないほどテンパってしまった。もちろん「終わった」と思った。
タオルを頭にあてがいながら、私は大勢のスタッフにスタジオから連行され、そのまま病院に連れて行かれた。
私はその間ずっと叫んでいた。
「ほんまに、ほんまにすいません!!!!」
血は出てるが意識も口調もはっきりしている。そんな私の行動を見て、芸人たちはやっとツッコんでくれた。その場にいたヒコロヒーは大爆笑していた。使えない映像なのに。いや使えない映像だからか……。