「海外では地方選挙でも総選挙でも外国人に参政権を与えている」「ジェンダー平等は外国ではパーフェクトに成し遂げられている」――。日本のニュースではそんな誤解を生みがちな表現も多くある。

ところがツイッター上では「May_Roma」(めいろま)として活動し、元国連職員で海外事情に明るい谷本真由美氏いわく、それは完全にあやまったイメージで、実際はどちらもぜんぜん機能していないという。

世界のニュースを知れば、誤ったイメージがアップデートできて、世界を見る目が“ガラッ"と変わる!

※本記事は、谷本真由美:著『世界のニュースを日本人は何も知らない4』(ワニブックスPLUS新書:刊)より一部を抜粋編集したものです。

外国人参政権、実は全然広まっていなかった!

日本では最近外国人に参政権を与えるべきだと主張する人々がいますが、このことを強く訴える人たちは、まるで海外では外国人に地方選挙でも総選挙でも参政権を与えているというようなことを繰り返しています。

ところが実際に海外を見てみると、外国人に対して参政権を与えているところはそれほど多くはなく、かなりマイナーな主張であることがよくわかります。

たとえば多くの国々では、大統領選挙など直接選挙でその国の国籍保持者以外は投票できないことになっています。これは国会議員を選ぶ国政選挙でも同じです。

一方で地方選挙の場合は外国人や永住権を持っている人でも投票できる場合があるのですが、ここで問題なのは日本ではなぜか指摘されない点があることです。

特に外国人の地方選挙への投票が強化されている国は、ヨーロッパの規模が小さな国、北欧、アメリカの沿岸部にある大都市などの地域に限られます。そういった地域には二重国籍や三重国籍の人がかなりいるということです。つまり外国人とはいっても、実はそこの国籍があるという人もいるのです。

さらに親の片方はそこの地域出身でハーフの人、またこれは日本ではなかなかないのですが、先祖がその国出身など、なんらかの形でその国とつながりがある人がかなりいることです。

▲「外国人参政権」に対して誤解している人が多い イメージ:マハロ / PIXTA

さらに北欧の場合はもともと今と昔では国境線が異なっていたので、今は紙の上では外国人だが文化的にはその国の人だということもあります。だから外国人とはいっても、厳密には外国人という感じではない人がいるのです。

たとえば私の知人の場合、この方が持っているパスポートはフランスだけど生まれたのはアメリカで育ったのはキプロスとイタリアです。ご両親はアメリカ人とフランス人のハーフなので家の中はアメリカとフランスのハイブリッドな文化です。でもイタリアでかなりの時間を過ごしているので、ご本人はどちらかというとイタリア人です。

こういう人がイタリアの地方選挙で投票する場合、感覚的には地元のイタリア人以上にイタリア人かもしれません。だからイタリアに関してはパスポートを持っておらず、国籍もなく、永住権しかなくても、考え方や感覚はイタリアの地元の人なわけです。

こういう方の場合、その国に来てまだ3年ぐらいしか経っていない思いっきり外国人的な外国人とはかなり違うでしょう。このように欧米ではハイブリッドで複雑な背景を持った方々がかなりいるので、そういう人を想定して外国人選挙権を議論し、選挙制度もつくっているのです。

だから厳密にいうと、外国人も地域の住人として認めてどんどん選挙権を与えよう、 という感じではなく、地元になんらかのつながりがあって、長く住んではいるが複数の国籍を持ったりしている人にも意思決定に参加してもらおうという感覚なのです。

この点において日本の議論はちょっとずれているなと思うところがあります。