いびつに成長した能力

誰しも自分の理想というものがあると思う。なりたい自分はきっとある。自分は芸歴18年でようやく気づいた。どうやら私は、自分が格好いいと思う芸人にはなれない。

「繊細」「ストイック」「万年睡眠不足」「不健康」など、自分が格好いいと思う芸人の特徴を挙げればキリがない。芸人になりたての頃は、芸人はかくあるべき、と外側から入っていった。しかし、私にその素養がないことに気づくのに、たいして時間は掛からなかった。

まず繊細ではない。

めちゃくちゃ鈍感だ。これは芸人にとって致命的。SNSをエゴサしてひどい書かれ方をしても何も思わなくなった。

「事務所の悪口を言ってるだけで芸がない」と書かれても「そうっすね」となってしまう。

「そうっすね」とドライに書くことで相手を見下す気もない。本当の意味での「そうっすね」が自然と出てくる。真の芯からの「そうっすね」である。

ただ芸人がスベったときや、後輩のちょっとしたミスを見つけたときは、めちゃくちゃ敏感に反応してしまう。そのセンサーだけが発達している。

鈍感なうえに、だらけきった精神構造だが、1方向だけに赤いセンサーが伸びていて、その前を誰かが横切ったときにだけ、ギャンギャン叫ぶのだ。

自分でも思う。最低だと。

さらにストイックでも、万年睡眠不足でもない。すこし前のことだ。さらば青春の光の森田と朝早くから撮影があった。朝8時に始まった撮影が押しに押して、終了したのは翌日の朝4時だった。

撮影も終盤に差し掛かった2時くらいには、私たちは立ったまま寝ていた。目が開けられないほどに疲れていた。芸能界きっての売れっ子である森田は、前日には単独ライブをこなし、さらに数本のYouTube撮影を終えたうえで、この仕事に臨んだという。狂気じみたスケジュールだ――。