ニュースって何を言っているかよくわからないし、自分には関係のない内容だろうな……。そんな気持ちで、ニュースから遠ざかった生活をしている人は少なくないはず。しかし、ニュースに出てくる言葉やできごとに違和感を抱いたときこそ、ニュースの真相に一歩近づくチャンスなのだと元『週刊こどもニュース』プロデューサーの杉江義浩氏は語ります。

あなたもニュースの違和感を深掘りして、真相に近づく楽しみを味わってみてはいかがだろうか?

※本記事は、杉江義浩:著『ニュース、みてますか? ~プロの「知的視点」が2時間で身につく~』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

私が覚える「ニュースの違和感」

─「イスラム国」「脱法ハーブ」─

ニュース番組を作り続けているうちに、私はいつの間にかニュースを裏側から見るようになってしまいました。現役を離れてからも、誤報はないかな、その表現で適切かな、などと作り手の立場でチェックしながらニュース番組を見るのが癖になりました。

一種の職業病ですね。ニュース情報バラエティー番組を見ていても、この解説者は説明が下手だな、このキャスターはよく勉強しているな、などすぐにわかります。

あの解説の名手である池上彰さんの番組でさえも、家でテレビを見ながら、「あらあら、池上さん、話をそっちの流れにしたらかえってわかりにくくなりますよ」とか「今の予定調和はちょっとあざとかったですね」などと思わず昔のクセでツッコミを入れることがあるほどです。

そんな私ですから、ニュースで使われるちょっとした表現が気になり、違和感を持つことがよくあります。

例えば「イスラム国」という用語でも、私の感覚ではニュースでそのまま使うのは、最初ものすごく違和感がありました。国家でもないのに「イスラム国」と国の字で終わっています。

「週刊こどもニュース」時代の子役たちの声が、今にも耳元に聞こえてきそうでした。

「ねえねえ、杉江さん、イスラム国ってどんな国なの?」

「いやいや、国じゃないんだよ。アルカイダみたいなイスラム原理主義過激派の武装テロ組織の名前なんだ」

「じゃあ、どうして『国』って言葉がついているの?」

「イスラム国はIS(Islamic State)を日本語に直訳したらそうなる。彼らが自分たちのことをISと名乗っている。マスコミは原則として集団に対しては、別に正式名称がある場合を除いて、当事者が名乗っている名称をそのまま使うからだ」

こんな説明でわかってもらえるだろうか、と想像しました。

たしかに間違った説明ではありません。けれどもそれでこどもたちの抱いた違和感は払拭(ふっしょく)されるでしょうか。おそらく無理でしょう。イスラム国という言葉には、スンニ派もシーア派も仲良く暮らす、統一されたイスラム教徒の理想郷のような、ファンタジックな響きがあります。

残虐なテロを繰り返す、国際的に誰も国家とは認めていない武装組織。そのような奴らに「イスラム国」なんて良いイメージの名称は、どうみてもふさわしくありません。

▲子どもたちの違和感の正体は? イメージ:川竜 / PIXTA

そんな違和感を自分のブログに書いてみました。そうしたら「私もそう感じていた」という反響がどんどん舞い込んで来たのです。やはり違和感は私だけではなかったのです。

私は「イスラム国」について調べ始めました。

イギリスとフランスとロシアが第一次世界大戦中に結んだ「サイクス・ピコ協定」によって、それまであったイスラム教徒の理想郷オスマン帝国は、イラクとシリアに西欧人の都合で勝手に分断されてしまったと知りました。そして、その体制を打破して、元のイスラム統一国家に戻すのが「イスラム国」の目標だということも。

そこまできてやっと腑に落ちました。こどもたちの質問の本当の意味するところは、

「どうしてこのテロ集団は自分たちのことを、国家みたいな名前で呼ぶの?」だったのです。そしてその答えは「彼らが国家づくりを目指しているから」だったのです。

こうして私の「イスラム国」に対する分析はスタートしました。

最初に感じた、「あれ? 用語として変だぞ」という違和感は大切なキッカケだったのです。ニュースを見ていて直感的に「あれ?」と感じた時には、必ずその奥にはニュースを理解するための重要なヒントが隠れています。それを追求していけば真相が見えてくるというわけです。

ニュースで使われる名称、用語から違和感を覚えることは大切です。

例えば今で言う「危険ドラッグ」のことを、事件が起き始めた当初はニュースでも「脱法ハーブ」と呼んでいました。一月ほどで警察の方でも、「危険ドラッグ」という造語が新しく正式用語になりましたが、それまでは私も「あれ?」と違和感を覚えていました。ハーブという言葉に引っかかったのです。

ハーブという言葉の語感にはナチュラル、クリーン、ソフト、といったイメージがあります。「脱法ハーブ」という言葉がニュースで使われる度に、何か安全な印象を与えて良くないじゃないか、とブログに書いたぐらいです。