金利分すらも「今は無理」
それから三年が経ち、私は2000万円くらいオジサンにお金を送っていました。2000万円なら月10万円くらいの金利がつくはずです。
でも5000円ですら、払ってもらったことはありませんでした。
「大丈夫、大丈夫、俺がちゃんと預かってて、お金は順調に増えてるから」そう言われて一時は納得しました。
ただ一部でいいから、金利分を払ってほしいと言っても「今は無理」と払われませんでした。
私以外の女性たちも疑いを持って、「お金を返してください」と言ったのですが、返してはくれず……。
そしていつしか彼とは連絡が取れなくなりました。
私たちは弁護士に相談し、マンションに行ってブランド品や自動車を差し押さえることにしました。しかし、ブランド品は全部偽物。金庫の中は空っぽ。自動車もマンションも別荘も、全部名義はオジサンのものではなく、知らない女性のものでした。
おそらく、セミナーの際に抜き取られた個人情報で勝手に購入されたんだと思います。
全員で警察に行ったのですが、全く相手にしてもらえませんでした。
裁判をした女の子もいたのですが、結局裁判するのにお金を使い、裁判所で風俗嬢であることへの辱めをうけたうえ、一円も回収できませんでした。
私たちは、自分たちのバカさと弱さ、世間の冷酷さを思い知りました。
結局私も泣き寝入り。2000万円を失い、自殺も頭によぎりました。
私は2000万円でも泣きましたが、私が誘い込んでしまったEさんはなんと2億円もオジサンに投資していました。私の10倍以上の損失です。
一生食べていける額を振り込んでしまったわけなので、さぞかし落ち込んでいるだろうし、申し訳ないことをしたと思っていました。
こんな私でも死にたくなったくらいなのだから、素直で性格のいいEさんは本当に死んでしまうかもしれない。
心配になった私が連絡をとると、「大丈夫、心配しないで。あなたのせいじゃないし、私は気にしてないから」こんな目に遭ったにもかかわらず、Eさんは優しい言葉を私にかけてくれました。
そして、「しばらく遠くに行くけど、また笑顔で会おうね。楽しみにしている」そんな言葉を残して、連絡が途絶えました。
数年後、Eさんから連絡が入り、久々に会うことになりました。電話口では明るい、あの時のEさんと変わりなかったのですが、東京で会ったEさんはずいぶん垢抜けていました。
全身を高級ブランド品で固め、整形もしているようで顔や体型も変わっていました。自信なさげな純朴そうな目は、今や自信に満ち溢れた眼差しになっていました。
彼女が指定したお店は、会員制のとても高級な店でした。
私以外にも若い女の子たちが数人呼ばれており、他の女の子たちは初めて入る高級店に舞い上がっているようでした。
派手な服に身を包んだEさんが話し出します。
「金持ちの彼氏がいて、彼はトランプの知り合いなの」
「ビルの売買で毎年数億儲けてる」
「あの有名な経営者や、モデルと仲良くて……」
景気の良い自慢話を繰り返します。会話中に、Eさんの後ろに控えていた若い男の子がギッシリと札束が入った紙袋をこれ見よがしに持ってきました。
Eさんは横目でそれをチラッと見ながら少し声を潜め、「実はね、今、世に出てない仮想通貨があって、私にお金を預けたら何倍にもなるよ」と、投資話を持ちかけてきました。
女の子たちはガッツリと食いついて、キラキラとした目でEさんを見ていました。私もターゲットのひとりとして呼ばれたのか?あの時、投資話に誘ったのをまだ恨んでる? あの素直だったEさんが……。
様々な思いが一気に頭をよぎり、パニックになりました。呼吸が浅くなって苦しくなっていきます。
なんとか呼吸を整え、顔を上げると、冷たい目でこちらを見つめたまま、口元だけに少しの笑みを浮かべているEさんの顔が目の前に……。
「アナタはやるよね?」
その言葉には「私はアナタの誘いでやったんだから」という意味が込められているように感じられました。
その見たことのないEさんの表情と、言葉の重みに怖くなり、「ごめん、帰るね」とその場を飛び出しました。
Eさんはその後もその詐欺を続け、見境なしに人を騙していったようです。預金だけでなく親の退職金を全部突っ込んだ男性、億単位をつぎ込んだ店舗オーナー、そして鬼出勤して稼いだ金を全部送金するかつての私たちのような風俗嬢……。
あの優しかった彼女を変えてしまったのは、私たちを騙したオジサンでしょうか?
いえ、それは私なんだろうなと今でも思っています。