当然のように黄色い歓声があがらない・・・

まだまだコロナへの警戒を緩めることができないなかではあるが、そろそろというか、ようやく芸人の世界にも営業たるものが戻ってきた。

営業というのは、芸人が数組で野外やショッピングモールなどに足を運んで行うイベントのことだ。先日、こんな私だが、野外でたくさん人が集まる場所での営業に呼んでもらった。「こんな光景も久しぶりだな」と、しみじみと思いながら無事ネタを終えた。

一息ついていたら、ある先輩が近寄ってきた。

「お前……出てくるときにキャーとかなかったな……」

私は先輩が何を言っているのか一瞬わからなかった。

「え? 何がですか?」

だが、聞き返した瞬間に理解した。

そう。確かに、私がステージに出てくるときに「キャー」というお客さんの歓声はなかった。そこにあったのは、舞台に出て行くときの私自身の

「ヨイショ〜! どうも〜〜!」

という元気いっぱいな声だけだった。

「こんなこと言うのはあれやけど……今、キャーとかないってことは……」

「コロナやからでしょ! 声出したらあかんし!」

大きめのツッコミで先輩の口をふさいだ。

だが、当の本人はとっくに気づいている……他の芸人にはちゃんと客席から歓声が上がったことを。

先輩が言いたいことはよくわかる(ちょっとずつテレビとかに出始めているのに、「キャー」のひとつもないヤツは、この先、売れないのでは……)。

これに尽きる。いろんな芸人が売れていく様を近くで見守っていた私だからわかる。今この瞬間こそ「キャー」があってなんぼなのだ。たとえ、このあとなくなってもいい。でも、今この瞬間だけは、「キャー」があるべきなのだ。

すると、違う先輩が私の思いを見透かしてこう言う。

「確かに、みなみかわの登場シーンってあんまり見たことないもんな」

いじられてるのか、何周か回って褒め言葉なのかわからないから、ただその先輩をジッと数秒見つめることしかできなかった。そして、変な空気になったからか、「なんやこいつ」とプイと横を向かれた。