結局、何一つ変わらない人生・・・
決勝が決まってから、決勝当日までの1週間はまるで夢のようだった。ライブに行くと芸人仲間からはヒーロー扱いされる。
「決勝おめでとう!」
賞レースで決勝まで行くことが、どれだけすごいことかを知ってる芸人仲間は、手放しで祝福してくれたし、友人知人が祝勝会をやってくれた。R-1決勝戦の前に、記者会見と順番決めのくじ引きがあった。
準決勝までは「これでダメなら本望!」という気持ちで強気に攻めていた俺だったが、いざ決勝が決まると、少し浮ついている自分がいたのも事実だ。
「順番はどこにしよう?」
「トップは嫌だなぁ」
「あの人と同じブロックは嫌だなぁ」
そして迎えた当日。俺のリハは早い時間からだったので、本番の19時までかなり時間が空いた。俺が入ったAブロックは、レイザーラモンRGさん、ヒューマン中村、TAIGA、スギちゃんというメンバーだった。
リハが終わるとRGさんが「本番まで時間あるから、お台場の大江戸温泉に行かないか」と誘ってくれた。スギちゃんは別の仕事があったから、俺とヒューマンと3人で大江戸温泉に向かった。温泉に入りながら俺はしみじみしていた。
「今日で人生が変わる」
決勝戦は重苦しい立ち上がりだった。雨上がり決死隊のお二人の司会で幕を開けるが、芸人はもとよりお客さんも緊張していて重苦しい雰囲気だった。トップのRGさんがステージ向かう。俺はセット裏で「俺以外の芸人はウケないでくれ」と願っていた。
俺の祈り(呪い)が通じたのか、RGさんが爆発的にウケてる感じはしなかった。次のヒューマン中村も、さほどウケなかった。俺の祈り(呪い)はなかなか効くらしい。だが、迎えた三番手の俺が出ていっても、準決勝ほどの爆発的なウケはなかった。俺はステージからはけると呆然としていた。自分まで呪ってどうする。最後に出たスギちゃんは、すでにお茶の間の人気者だったので、やっとお客さんの緊張もほぐれたのがわかった。
審査員の桂文枝師匠が俺に2票入れてくれた。だが、喜べたのは一瞬だけだった。その他の審査員からは1票も入らず、Aブロック敗退が決まった。やっとたどり着いた夢の舞台で早々に敗退。爪痕も残せず終わった。そのあとの記憶はほとんどない。
この年優勝したのは、やまもとまさみさんだった。だが、やまもとまさみさんもこのあと、さほどテレビに露出することはなく、現在は芸人を続けながらクレープ屋さんを経営してると聞く。なんて厳しい世界なんだろうとつくづく思う。
そして、俺はというと「これで人生が変わる!」と思っていた、その大江戸温泉でバイトを始めることになる。賞レースの決勝で行った街のスーパー銭湯で働くようになるとは思わなかった。
(構成:キンマサタカ)