密着カメラの前で号泣

さて、準決勝。ここで勝ち残れば夢にまで見た決勝進出だ。出番表を見て俺は小さくガッツポーズをする。出番はCブロックのトリだった。

「これはいける!」

ブロックのトリでウケれば、決勝に行くことが多いことを経験上で知っていたからだ。ようやく訪れた勝負のとき。ここで勝負しないでいつする。一年の集大成であり、これまでの俺の芸人人生の集大成だと思った。

「落とせるもんなら落としてみろ」

そうつぶやいて、俺はステージに向かった。

結果発表は翌日だった。受かった人にだけR-1の密着カメラがくるらしい。迎えた翌日、当時よく飲みに連れてってくれたマネージャーから電話が入り、飲みに行くことになった。その途中、新宿で過去に2回、R-1ぐらんぷりのファイナリストになったキャプテン渡辺さんと偶然会う。

「R-1の結果どうでした?」

「かなりウケたと思うんですが、カメラ来ないですね〜」

聞けば、SMA所属のロビンフットおぐさんのもとには、すでにカメラが来ているようだった。あれだけウケても今年もダメだったか……。

「まぁまだ待ちましょう! ダメだったらまた一年頑張りましょう」という声が遠くで響く。

マネージャーと合流しても、結果が気になって気が気じゃなかった。途中で、じゅんいちさんにもメールを送ったところ、「受かってたわ! TAIGAはどう?」と返信がきた。

20時を回った頃、スギちゃんから電話が入る。

「TAIGAどう? カメラきた?」

「いや来てないです。スギさんどうですか?」

「いや、俺も来てない。今、日テレの楽屋なんだけど、今年はダメだったのかも……ん?  わ! 楽屋にR-1のカメラ入ってきた! 俺、受かってたわ〜ごめん!!」

22時を過ぎた。残り2時間で今日が終わる。さらにグラスを重ねると酔いも回り、気がつけば時刻は23時になろうとしていた。もうすぐ今日が終わる。あれだけ頑張ったけど決勝には行けなかった。これだけやってダメだったのだから、もう辞めどきなのかもしれない。最後はやけ酒になっていた。

マネージャーが「結果はしょうがないよ。また頑張ろう」と励ましてくれたと同時に、誰かが俺の左肩をポンポンと叩く。カメラを回しているスタッフの姿が目に飛び込む。

「決勝進出が決まりましたよ、おめでとうございます!」

これまでのことが走馬灯のように蘇り、俺は人目をはばからず号泣してしまった。すぐに若林に電話して決勝進出を伝える。若林も電話ごしに喜んでくれているのがわかった。

後日聞いたところ、キャプテンさんは俺に会った時点で、決勝メンバーに俺が残っていることを知っていたらしい。それを教えてしまうと、カメラがきたときにリアクションが取りにくいだろうと気遣ってくれたのだ。キャプテンさんは心の中で「おめでとう」とつぶやき、俺の落ち込んだ背中を見送ってくれたらしい。

その日のことは、それからあまり覚えてない。だが、これで人生が変わる、そんな気がした素晴らしい夜だった。