昨年12月、外務省が発表した統計において、海外で永住する日本人が過去最高になったことがわかりました。永住者数(2022年10月1日現在)は55万7千人に上り、前年比より2万人増加しています。海外で働く、生活するということが、以前よりも日本人にとって身近になっているのかもしれません。

コロナ禍でのリモートワークが普及し、自由な働き方が促進されたことも理由だと思いますが、もっと深刻な背景として、やはり日本を支配する閉塞感があるからではないでしょうか。

日本経済の停滞によって、20年以上も賃金は上がらず、平均年収は韓国に追い抜かれてしまいました。また少子高齢化で人口が激減している日本社会に対して、将来の希望を持てない多くの日本人が「海外に行く」という選択をしたと考えられます。この傾向は今後も続くことが予想されています。

今回は日本人の移住先として人気がある、東南アジアのタイ王国に注目したいと思います。日本人の海外移住は、グローバル化が進展した最近の傾向であると感じますが、戦国時代から江戸時代にかけても東南アジアへ移住する多くの日本人がいました。

今回の記事では、まずタイ王国の歴史を簡単に紹介し、今から約500年前の東南アジアで活躍した日本人を紹介したいと思います。

▲日本人にも人気が高いタイ王国 出典:Peter Hermes Furian / PIXTA

日本人にも人気が高いタイ王国の歴史

観光地として有名なタイ王国ですが、近年では移住先としても人気を集めています。外務省の「海外在留邦人数調査統計」によると、タイ王国は約78,000人で4番目にランクインしています。(令和4年10月1日時点)

人気の理由は、年間を通じて温暖であること、物価が安いことなどがあげられます。また日本と同じ仏教を信仰しているため、倫理観を重視する日本人の価値観に合っているという指摘もあります。

タイ王国の起源は、今から約800年前のスコータイ朝にさかのぼります。1238年、タイ族によって初めて開かれた王朝です。日本では鎌倉幕府が全盛期だった時代になります。

1351年にはアユタヤ朝が成立し、約400年間の長期政権を維持しました。日本では室町時代から戦国時代、そして江戸時代中期にあたります。また16世紀〜17世紀の世界史は「大航海時代」になり、当時のアユタヤ朝は国際貿易都市として繁栄しました。この時代の東南アジアで日本人が活躍したのです。詳しくはのちほど説明します。

タイ王室の血筋は、1782年に始まったラタナコーシン朝から現在も続いています。19世紀から始まるヨーロッパの帝国主義によって、植民地化の危機に直面しますが、イギリスとフランスの緩衝地帯となったため植民地化は免れました。アジアのなかで独立を維持できた国家は、日本とタイ王国だけと言われています。

長く国王による独裁が続きましたが、1932年の革命によって立憲君主制に移行します。立憲君主制とは、現在の日本が採用している統治スタイルになります。「天皇(国王)は存在するが、政治には関与しない」というものです。

現代のタイ王国は幾度となくクーデターが起こり、政治は不安定ですが、経済は順調に成長しています。中国の経済成長によって中国国内の人件費が高騰しているため、世界の投資先は中国からタイ王国をはじめとする東南アジアに移行しています。そのため、今後も大きな成長が見込める国として期待されています。

▲タイ国王のラーマ10世 写真:The Public Relations Department / Wikimedia Commons